第9章 ハロウィーン
ハーマイオニーの悲鳴が聞こえて、ハリーとロンは女子トイレに突入した。目に飛び込んできたのは、壁の奥に張り付いて怯えているハーマイオニーと、大きなトロールの背中。バチバチと火花がトロール頭に上がっていた。
「ミラが!ミラがまだ中にいるの!」
ハーマイオニーがトロールを指さして叫んだ。ミラはすでに女子トイレの一番奥の壁に背中をつけていて、もう逃げ場がなく苦戦していた。
「別のものに惹き付けるんだ!」
ハリーは無我夢中でロンにそう言うと、落ちていた蛇口を拾って力いっぱい壁に向かって投げ付けた。
「やーい、ウスノロー!」
ロンも叫んで、金属パイプを投げ付けた。
トロールは、パイプが肩にあたっても何も感じないようだったが、それでも叫び声は聴こえたらしく立ち止るとハリーの方を見た。そして今度はロンのほうに向いたので、ハリーはその後ろに廻り込む余裕ができた。
「ミラ!逃げるんだ!」
「ハリー!」
ミラはハリーとロンの存在に気がつくと、できた隙間に向かって走った。それに気が付いたトロールが、ミラに手を伸ばしていることに気が付いたその時、ハリーは勇敢とも、間抜けとも思える行動に出た。走って行って後ろからトロールに飛び付き、腕をトロールの首根っこに巻き付けた。
トロールにとって、ハリーが首にぶら下がっていることなど感じもしないが、さすがに長い棒切れが鼻の穴に突き刺されば気にしないわけにはいかなかった。ハリーは杖を持ったまま飛び付いていたせいで、杖はトロールの鼻の穴を突き上げてしまった。
痛みに唸り声を上げながらトロールは棍棒をメチャクチャに振り回したが、ハリーは渾身の力でしがみ付いていた。トロールは、しがみ付いているハリーを振り払おうともがいて、今にも棍棒でハリーに強烈な一撃を喰らわそうとしていた。
「ハリー!!離れるんだ!!!」
「ウィンガーディアム・レビオーサ!」
突然、誰かが叫ぶ声が聞こえた。棍棒がトロールの手から離れ、空中を高く高く上がって、ゆっくり一回転すると、ボクッという嫌な音を立てて持ち主の頭の上に落っこちた。