第9章 ハロウィーン
「冗談に決まってるじゃん」
と、ミラは言ったが、ニヤニヤとドラコを見ると、ドラコはますます不機嫌になってしまった。
「僕はただこれからご馳走だって言うのに、一人寂しく寮に戻ろうとしている哀れなお前に声をかけてやっただけだ!」
「それはそれは…でもわたしは寮には戻らない」
「じゃあどこへ行くつもりだ」
「どこって…着いてくるつもり?」
「そんなわけないだろ」
ドラコはますますミラを睨みつけたが、ミラははぁ、とわざとらしい大きなため息をついて見せた。
「デリカシーがないのはロンだけにしてほしいね」
「あいつと僕を比べるなんて論外だ」
「でもわたしがどこに行くか気になっている。もうそろそろ察して欲しいな、ドラコ坊ちゃん」
「その呼び方はやめろと言ったはずだ!」
ドラコは声をあげて言うと、まだ廊下で数人歩いていた生徒たちが振り返った。
「---お手洗いなんだけど、もう行っていい?」
ミラはやれやれと、わざと呆れたふりをして行き先を伝えると、ドラコは一瞬言葉を詰まらせた。
「っ…さっさと行け!」
「はいはい」
ドラコのご機嫌をしっかり悪くしたミラは、ヒヒヒと笑いながら女子トイレに向かった。一方すっかり彼女のペースに乗せられ、気分を害したドラコは、従えていたクラッブとゴイルに「行くぞ!」と語気を荒めて大広間へ向かった。
・・・
ミラはハーマイオニーがいる女子トイレまでやってくると、静かなトイレに耳を澄ました。時々鼻を啜る音を拾うと、大広間から女子トイレまで順調に歩いていた足は、今や重く、ノロノロと亀のように奥へ向かった。
もうすでに大半の生徒は大広間に向かったせいで、ほとんどのトイレが空っぽの中、一つだけ閉じられている扉があった。ミラは一度足を止め、息を一つ吐いて前に進んだ。閉じられているドアの前まで来ると、ミラは意を決して声を出した。
「---ハーマイオニー、いるんだろ?」
しかし応答はなかった。
「大広間でご馳走がもうできてるから、食べに行こう」
「--放っておいて、わたしのこと嫌いなんでしょ」
ミラは言葉を詰まらせた。やはり聞かれてしまっていたようで、ミラは後でロンをぶっ飛ばそうと思った。