第9章 ハロウィーン
空いているテーブルに荷物を置くと、まずは材料を取りに向かった。眠り薬の材料は、ラベンダー、レタス食い虫の粘液、カノコソウの小枝など。作りは至って簡単だが、相手を眠らせる効果は即効性があり、その名の通り一時的な眠りにつく。
材料を揃えてテーブルに戻り、教科書を見ながら作業を進めていると、横で作業をしていたドラコが小声で話しかけてきた。
「どうしてポッターが学校にいるんだ?アイツは退学になったんじゃないのか?」
「お生憎様、色々あって退学にならなかったんだ」
「なんだ、色々って」
「なんだと思う?」
ニンマリ笑って答えると、ドラコは顔を顰めて、自分に教える気がないのだとわかると、手元の作業に顔を戻した。
「その様子だと、無事帰れたみたいだね」
「当たり前だ。僕が捕まる訳がないだろ、あんなスクイブに」
「スクイブ?」
ミラは聴きなれないワードを聞き返すと、ドラコは訝しげにこちらを見ていた。
「知らないのか?魔法が使えない魔法族のことだ」
「…あ、あぁ、スクイブか。周りにいなかったからすっかり忘れてたよ」
一瞬ヒヤリとした。ミラはあくまで魔法族側の孤児院で育ったと、ドラコに思わせているため、平静を装って作業に集中するフリをした。いつかはバレてしまうだろうが、ミラは何気にこの魔法薬学が悪くないと思っていた。
ドラコといればスネイプ先生からの減点も、嫌味も言われない。何よりいつドラコの教科書を見ても、予習をした跡が見られる。作業も滞ることなく、指示を出すのもうまかった。
「…何を笑っている」
フフっと思わず笑い声が漏れたことに、ドラコは眉を潜めた。
「最初はこの授業は好きになれないと思ってたけど、ドラコとなら悪くないなって思って」
「---何を言い出すかと思えば----褒めても何も出ないぞ」
「いらないよ。でももしわたしがスリザリンだったら、もっと早くそれに気づけたのかもしれないなって」
「--フン、今更だな」
ミラはチラリと隣にいるドラコを見た。横顔からは何も読み取れなかった。切った材料を鍋に入れ、火の調節をしながら、グルグルとレードルを回していた。