第55章 暗闇でも見つけて
(まさかネビルに知られるなんて)
冷や汗が背筋を伝う。どうする? どうすればいい----頭の中が真っ白になる。
ネビルはまさかミラに壁に押し付けられるとは思ってもおらず、恐怖と不安で震えていた。何より、一層色が落ちたようなアメジストの瞳は暗く、冷たい色をしているように見えた。
「誰かに言ったか?」
声が思ったよりも低く出た。ネビルは強く首を振った。
「だ、誰にも!言え、言えないよ!君が----あの呪文を使おうなんて----ぼくは、」
「使うかどどうかは私が決める。誰にも止める権利はない」
「アズカバンに送られちゃうよ…僕、君にそんなこと----」
ミラは思い知りネビルを地面に叩きつけるように放り投げた。ポケットから杖を掴み、倒れているネビルに向けた。
(消さないと…記憶を消さなきゃ----)
「何も知らないくせに----憎いってだけじゃ言葉に表せる言葉あると思う?」
「ミラ…やめて…」
「私だってこんな呪文知らない方がよかったよ…でも、あのマグルのクソババアを思い出すと、今までされたことをやり返したくなる----ネビルにはこんな気持ちわからないだろ」
「わからないよ!でも、君はそんなことしないよ!だって、君は優しいから!僕知ってる!」
地面に転がって震えているネビルは、真っ直ぐミラを見ていた。
「お願い。使わないって言って----その呪文は----僕の----ぼくの----」
ボタボタとネビルの目から大粒の涙が溢れ出した。
「ぼくの両親は----『例のあの人』の部下からその呪文を受けて----今も、病院に----」
ミラは目を見開いた。ネビルに杖を向けている手の指先が、じわりと冷たくなっていく感覚がした。
「使ってほしくない----使わないで----ミラがそっちに行っちゃうの、ぼく、見たくない…」
「…」
ミラは言葉を失った。ネビルの言った言葉が、頭の中でグルグルと回っていた。ネビルの両親は磔の呪いを受けた。消さなければ。今も入院している。消さないと。君は優しいから。優しくなんかない。消さないと----記憶を、消さないと----。