第54章 死にたがりの囁き
「----おっかなびっくり。あれはかなりキレてるよ」
と、ロンがやっと言葉を発したことで、やっと周りも食事を再開した。ハーマイオニーがナプキンを持って立ち上がり、ずぶ濡れのラベンダーとパーバティに渡していた。ハリーは気の毒そうに二人に視線を送ると、大きな笑い声が向かいの端から上がった。スリザリンの生徒たちが面白おかしくゲラゲラと腹を抱えて笑っていた。
「ハハハハハッ!マジでグローヴァーヤベェ!!」
「あーあ、可哀想なお二人さん。びしょ濡れじゃない」
「こうなるって占えなかったのか?不幸占いはトレローニー先生の十八番だろ」
ラベンダーとパーバティはびしょ濡れのまま、顔を真っ赤にして俯いた。二人の頬を水が伝い落ちるたび、スリザリンのテーブルからまた笑い声が起こる。止める者は一人もいなかった。
ロンがスリザリンの方を睨みつける。
「最低な奴らだ」
だがその一言も、笑い声にかき消された。パーバティが小さくしゃくり上げ、ラベンダーが震える声で呟いた。
「……ひどい……」
けれど、スリザリンの生徒たちは笑いは止まなかった。
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大広間を出たミラはゴオゴオと煮えたぎったマグマのように怒りを抑えて廊下を歩いていた。この怒りの矛先をどこかにぶつけてしまわないと、目に見えるもの全てを破壊したいと思えるほど。ミラが廊下を歩くたびに、ガタガタと窓が震え、壁に飾られた絵の住人たちも絵の中が揺れ始めて騒ぎ声を上げた。
「おい!揺れが酷いぞ!」
「やめてちょうだい!部屋が散らかるわ!」
「聞こえないのか!」
うるさい、とミラは思った。このまま怒りに任せて絵の住人たちに手を振り払おうとした時だった。
「ミラ!」
聴き慣れた声に呼ばれ、ミラはピタリと腕を振るうのをやめてソッと降ろしてから後ろを振り返った。
「----ハリー」
ハリーは少しだけ息を弾ませてやってきた。