第54章 死にたがりの囁き
『闇の魔術に対する防衛術』がたちまち全生徒の一番人気の授業になると同時に、ミラの噂話も全生徒に知れ渡っていた。例の『イケメンスリザリン生』は誰なのか、ほとんどの女子生徒がミラに尋ねると、ミラの眉間に深い皺が刻まれた。
ミラは心底うんざりしていた。今まで話したことがない上級生の女子生徒たちが、トムのことを聞こうとあれこれ質問してくることに、今ほどバジリスクに鏡越しで睨まれて石化してしまえばいいのにと思ったことない。
挙げ句の果てには、ボガートを見つけたから来て見せて欲しいとお願いされた時は、思わず「頭がおかしいのか?」と本気で言いそうになった。
何故そこまでしてあの男を見てみたいのか、ミラには理解できなかった。ラベンダーたちがどう言ったのかわからないが、いつの間にか“ホグワーツ一の超絶イケメンが現れた”という噂に変わっていた。
しかし、ミラを更に苛立たせていたのはスリザリンの上級生の男子たちだった。
「おい、グローヴァー。あの“イケメン”って俺のことか?」
と、すれ違いざまに茶化してきたり、わざとらしく口笛を吹いたりする。
ミラが不快な目で相手を睨みつけ、拳を握りしめて一歩踏み締めると、ハリーとハーマイオニーが慌ててミラの両腕を取って引きずってその場を離される。背中越しに笑い声が追ってきた。
「あんな口だけの奴らなんかに負けない」
ミラはイライラした様子を隠しもせず、ハリーとハーマイオニーに言った。
「喧嘩なんてしたら、スネイプがすっ飛んでくるよ」
「そうよ、ミラ。ハリーの言う通りだわ。無視が一番よ」
「…」