第54章 死にたがりの囁き
「君はミラのことを知っているつもりか?」
「----何が言いたいんだ」
リドルの視線が、鋭く彼を射抜く。
「彼女は強かった。だが同時に弱い。----憎しみを抱える者は皆そうだ」
「ミラが弱いなんて言うな!」
僕は思わず声を荒げた。
リドルの口元に、ますます皮肉な笑みが浮かぶ。
「へえ…守ろうとするのか。だが、彼女の中にある怒りは、君の知らないほど深い。僕はそれを見抜いた。君よりも、彼女自身よりも、僕が知っている」
ハリーの心臓が高鳴った。
リドルは一歩、影から踏み出し、低く囁いた。
「君は彼女を友と呼ぶのだろう? だが本当にそうか? 彼女が困った時、君を頼ったかい?」
ハリーは答えを探そうと口を開きかけたが、言葉が出なかった。
リドルはその沈黙を、勝ち誇ったように楽しんでいる。
「哀れだな、ハリー・ポッター。君はヒーローを気取っているが、この死にたがりを救うことはできない。彼女自身が進んで奈落へ歩んでいくんだ。どれだけ手を伸ばそうと、掴めるものなんて何もない」
リドルの言ったことが、今になって分かったような気がした。
でも、ミラは本当にリドルが言ったように、死にたがりなんだろうか。僕にはとてもそう見えない。無鉄砲なところはあるけれど、いつも僕たちのために立ち上がってくれる。味方になってくれる。
でも、ミラは?
思い返せば、ミラから相談を受けたことはあっただろうか?
話したことと言えば、お互いのマグルでの生活の劣悪さをよく話し合ったことだ。どれだけミラが孤児院の院長を恨んでいるかもよく知っている----それだけだ。リドルの言葉なんて信じるものか、と頭では否定した。けれど胸の奥がざわつく。僕はミラのことを”家族のように大切だ”と思っていたのに、彼女が本当に何を恐れ、何を望んでいるのか----ほとんど知らないのではないか。
知らないからこそ、リドルの冷たい声が心に刺さったまま抜けていかない。