第54章 死にたがりの囁き
ミラは歯痒かった。自分が恐れているのは自分自身であって、トム・リドルではない。なのに噂は一人歩きして、まるで自分がトムを恐れていると思われているのが腹立たしくて仕方なかった。
「もう離して、大丈夫だから」
と、ミラは少し乱暴に二人の拘束を解くと、三人を置いてさっさと歩いてしまった。
「なんだよ、あいつ。こっちは心配してやってるのに」
ロンは小さくなっているミラの背中を見て不満げに呟いた。
「仕方ないわ、毎日誰かにトム・リドルのことを聞かれるのよ?」
「だからって僕たちに当たるのはやめて欲しいぜ。なぁ、ハリー。ミラはまだ君に何も言わないのかい?」
「----うん、まだ」
ハリーは俯いた。
「いつか話してくれるわ。今は時間が必要なのよ」
と、ハーマイオニーがハリーの肩にそっと手を置いて言った。
「だといいけど…」
ミラは肝心なことは言ってくれないから、とはハーマイオニーとロンの前では言えなかった。
ルーピン先生の授業は、今までの先生に比べたら最高のはずなのに、ミラはルーピン先生を見ると浮かない気持ちになるばかりだった。
ルーピン先生だけがボガートのミラがなんの呪文を言おうとしたか知っているからだ。心の内を見られたようで、ミラはどうもルーピン先生に苦手意識を持ってしまった。
授業中に目が合うと、ルーピン先生は柔らかい笑みを見せるせいでミラは顔を顰めた。
まだスネイプ先生の方がルーピン先生より苦手じゃないもかもしれない、とミラは魔法薬の授業を受けているときに思った。スネイプ先生はボガートの授業でネビルがスネイプ先生に祖母の服を着させた話を聞いてから、ますますネビル苛めがひどくなった。
これに関しては、スネイプ先生が日頃からネビルを苛めているのが悪い。
そしてルーピン先生の名前が出ただけでスネイプ先生の機嫌が急降下して悪くるのだから、何かあったときにルーピン先生の名前を出して更にイライラさせてやろうとミラは思った。