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【HP】怪鳥の子

第53章 潜む闇


「他の生徒たちが見たのは、“外の恐怖”でした。大きなクモ、先生、ミイラ……それぞれにとっての脅威。でも----あなたが見たのは、“内側”の恐れです」

 ミラは、言葉が出なかった。

「自分の中に、誰にも見せたくない部分がある。それが、いつか本当に自分を変えてしまうんじゃないかって、怯えている。----私にも、心当たりがあります」

 ルーピン先生の声は静かだった。けれど、どこか自分自身の痛みに触れているようでもあった。

「自分の中に潜むもの。そういう恐怖は----とても深く、そして難しい。けれど、君はきちんと向き合おうとした。最後まで、自分の意志で止めようとしていた。私は、そう見えましたよ」

 その言葉が、ミラには耐えがたいほどやさしく響いた。唇をきゅっと噛み締める。

 あの呪文の断片。口にされる前に封じたはずなのに----確かに、誰かの耳には入っていたかもしれない。それだけは、どうしても避けたかった。

「----先生。誤解しないでください。私、別に“立ち向かった”わけじゃないです」

 ミラは静かに、でもどこか突き放すように言った。

「みんなに……あの呪文、聞かれたくなかっただけです。さっさと終わらせたかった。それだけです」

 強く言い切ったつもりだった。でも、言葉の端にかすかな揺れがにじんでいた。

 ルーピン先生はすぐには何も答えなかった。ただ、黙って目を細めてミラを見つめていた。その表情は、裁くことも憐れむこともなく----しかし、逃げ場を与える優しさを含んでいた

「私は、理由を問いません。ただ----使いたくないなら、その気持ちを忘れないでいてほしい」

 優しさに滲む重みが、逆にミラの胸を締め付けた。その一言は、否応なく、心の奥に潜む「使いたい衝動」まで照らし出すからだ。

「君が、もし----誰かに話したくなった時は、その時は、私がここにいます。ちゃんと、聞きます」

 ミラは何も答えなかった。

「さぁ、もう行っていいですよ。きっとハリーたちが君を待ってるはずだ」

  ルーピン先生の穏やかな声が、背中を押すように耳に届いた。

 ミラは黙って教員室から出た。
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