第53章 潜む闇
廊下へ出た途端、抑えていた足が勝手に速まる。
足音が石畳に反響して、やけに大きく響くのが嫌だった。
何も考えたくなかった。
さっきの教室の空気も、ルーピン先生の眼差しも、あの笑みも――全部、追いかけてくるようで。
階段を二段飛ばしで駆け上がり、グリフィンドールの談話室に辿り着く。合言葉を吐き捨てるように告げ、ドアが開くや否や中へ。
暖炉の火も、くつろいでいる生徒の視線も、視界の端で弾き飛ばしながら、女子寮の階段を一気に駆け上がった。
自室の扉を開け、ベッドまで一直線に走る。ためらいもなく天蓋のカーテンを引き、勢いよく布団に潜り込むと----ようやく足が止まった。
胸が上下している。息が乱れている。
けれど、それ以上に、心臓がうるさくてたまらなかった。
瞼を閉じても、あの笑い声と囁きが消えない。
布団を頭まで引き上げ、耳を塞ぎながら、ミラはただその暗闇に身を沈めた。