第53章 潜む闇
その後、ルーピン先生がネビルを指定してボガートをやっつけることができたが、ミラはその場で立ち続けていた。
「ミラ?ミラ、大丈夫?」
ハリーが顔が青ざめているミラに、両肩を掴んで揺らして声をかけた。
「どうしてあいつが…」
困惑しているハリーに、ミラは答えることができなかった。ミラ自身もまさかトム・リドルになるなんて思ってもいなかったからだ。しかし、自分自身が磔の呪文を口にしようとしたとき、一瞬考えてしまったのだ、彼のことを。
「ミラ、これを食べなさい」
ルーピン先生がチョコレートを割って、ミラに渡した。ミラは「どうも…」と、小さな声をやっと出すか出さないかの音量で、チョコレートを受け取ったが、とても食べたいとは思えなかった。
「あとで少し僕と話をしよう。それじゃあ、みんな、宿題だ。ボガートに関する章を読んで、まとめを提出するように。月曜までだ。今日はこれでおしまい」
みんなが興奮して、喋りながら教員室から出ていくのを、ミラはぼんやり見ていた。ネビルが何か話したそうにしていたが、ディーンとシェーマスがネビルがボガートを倒したことについて話しかけられてしまい、そのまま部屋を出て行ってしまった。
「ハリー、ロン、ハーマイオニー、少し席を外してもらえないかな?そんなに長くないよ」
ルーピン先生はミラを心配している三人に、優しく話しかけて教員室から出した。バタン、とドアが閉まると、ミラは手汗が酷くなり、ぎゅっと手を握り込んだ。
「今日は、少し----大変だったね」
「…」
ミラは何も言えなかった。
何が”大変”だったか、きっとルーピン先生はわかっている。知られたくなかった。誰にも話したくなかった----いや、話せるわけがない。でも、ルーピン先生がはっきり言わないところに、先生の優しさを感じた。
「君のボガートは----君にとって少々特別でしたね」
ミラはゆっくりと顔を上げ、ルーピン先生を見た。ミラはルーピン先生はきっと失望していると勝手に思っていたが、ルーピン生生の表情は相変わらず柔らかく、ただ静かにこちらを見ていた。