第53章 潜む闇
「ミラ?」
誰かの声が聞こえたが、ミラは目の前に現れた自分に、目を大きく開いて見ていた。
同じ制服、同じ髪型、同じ表情、同じ瞳の色----鏡合わせの様だとミラは思った。目の前のボガートも杖を持っていて、自分に向けていた。
「クルー…」
「ッ!! リィディクラス!」
ミラは背中が凍りついた。一瞬喉が詰まった。それど、その前に必死に振り絞るように声を出した。パチンと音がすると、ボガートのミラはぐるぐると真っ白な布に全身包まれ、姿が見えなくなった。誰も何も発しなかった。
(よかった----誰にも気付かれてない)
ミラは息を吐いて、次はハリーの番だと思い振り返ったときだった。
「クス…クスクス……」
包帯の中から、くぐもった笑い声が響いた。ミラがボガートに向き直ると、ボガートは姿を変え始めていた。
次の瞬間、そこに立っていたのは----。
「なんで…」
スリザリンのローブを着た青年。静かで整った顔立ち。闇の様に冷たい瞳。そして、完璧に計算された笑み。誰もが見ているはずなのに、なぜかその微笑みはミラにだけ向けられているように感じられた。
「そんなんじゃ、あの呪文は使いこなせない。君のように怒りを抑える子は、特にね」
リドルはゆっくりと歩み寄ってくる。声はほとんど囁きなのに、耳元で響くように聞こえる。
「でも、大丈夫。君ならきっとできるようになる。あの院長の顔を、思い出してごらん?」
その一言で、ミラの膝が揺らいだ。指から杖がすべり落ち、乾いた音を立てて床に転がる。
「怖がらなくていい。君は僕に似ているから」
リドルの囁きが、頭の奥に染み込んでくる。
「ミラ!」
ハリーが慌ててミラの前に出る前に、ルーピン先生がミラとトム・リドルの間に割って入った。
「私が相手だ!」
パチン!と、トム・リドルが消えてしまった。ルーピン生生の前に、銀白色の玉が浮かんでいた。ルーピン先生が「リディクラス」と唱えると、ゴキブリになって床に落ちた。