第53章 潜む闇
ミラはようやく顔を上げた。マクゴナガル先生の目は、厳しさの奥に、深い悲しみのようなものをたたえていた。
「先生、」
「さあ、朝食を済ませなさい。今日も授業があります。遅れないように」
マクゴナガル先生はそれだけ言うと、背を向けてデスクのほうへ向かった。何か書類を取り出すふりをしながら、ふっと小さく息を吐く。ミラは黙って扉へ向かう。そして、ドアに手をかける直前に、もう一度だけ振り返った。
「----先生、ありがとうございました」
マクゴナガル先生は振り向かなかったが、わずかにうなずいたように見えた。
廊下に出たミラの胸の奥には、言いようのないざらついた気持ちと、それでも確かに灯った何かがあった。
それから数日、ドラコの姿を見ることはなかった。木曜日の午前最後の授業はスリザリン生と合同の『魔法薬学』だった。この日はミラはハーマイオニーの横に大鍋を並べて『縮み薬』を作ることになった。
そこへネビルが自信なさげに横に座っていいかと尋ねると、ハーマイオニーは快く「いいわよ」と言って、同じテーブルで作ることになった。
最初にスネイプ先生の『縮み薬』はどう作るかの説明を聞くと、作業に取り掛かった。
「----ネビル、その雛菊の根はもう少し大きさを揃えた方がいい」
「え、あ、うん----ありがとう、ミラ」
「別に。スネイプ先生に目を付けられたら面倒臭い」
「…そう、だよね…」
ネビルは落ち込んだ様子で、また雛菊の根を刻み始めた。ネビルはスネイプ先生が近くを通るたびにビクビクと怯えて、何度かナイフで自分の指を切りそうになっているのをミラは見かけた。もしかすると、指を切り落とすかもしれないとミラは見ていられない気持ちになった。
しかし、何故か助けすぎるとスネイプ先生は嫌味と減点を言い渡すのだから、ミラは時々スネイプ先生が嫌味を言いたいがためにわざとネビルに失敗させようとしているのではと、疑いの目を向けた。