第53章 潜む闇
「あなたの命に関わることです」
「でも今回は平気でした! 倒れてないし、血も少ししか出なかった。――つまり、私の体が魔力に耐えられるようになってきたってことです!」
マクゴナガル先生は、落ち着いた口調で、それでも冷たさを含まない声で言った。
「誰かのために自分を犠牲にするのが正しいと思ってしまうのは……それは、若さのなせることです」
そう言ってから、マクゴナガル先生は少し歩み寄り、声をやや柔らかくした。
「でも今回は、処罰はしません。誰かを守ろうとしたこと自体を、私は否定できません。ただし――次はありません。いいですね?」
「……」
ミラはうなずいたが、視線は床から動かなかった。
「貴方の判断が間違っていたとは言っていません。問題なのは、自分自身をないがしろにしていることです。それは私の監督不行き届きでもあります」
教員室の時計の針が、静かに時を刻む音だけが響いていた。ミラは視線を床に落としたまま、指先をぎゅっと握りしめた。言い返したいことはいくつもあった。でも、今それを口にしても、先生の目を真正面から見られる気がしなかった。
「----私は、ただ----助けなきゃって思って…」
か細い声がようやく口からこぼれる。
「分かっています」
マクゴナガル先生の声は変わらず穏やかだった。その声が、かえって胸に刺さる。
「その気持ちは、大切にしなさい。ただし、それをどう行動に移すかは、これからもっと考えなければなりません。貴方には、その責任がある」
責任――その言葉の重みが、ミラの肩にのしかかる。
「……力を持っているから?」
「ええ。持っているということは、使い方を選ばなければならないということです。貴方が何かを守ろうとするたびに、自分が壊れていくようでは----私は、見ていられません」