第52章 ヒッポグリフ
「よーし、そんじゃ、ハリー、ミラ、こいつらはお前さんたちを背中に乗せてくれると思うぞ」
「え?」
ミラとハリーは予想外だという顔を浮かべて声を漏らした。ハリーはどこか緊張した面持ちだったが、ミラはさらにヒッポグリフの背中に乗れると知って最高潮に気分が上がるのがわかった。ハグリッドからヒッポグリフの登り方を教えてもらいながらヒッポグリフの背中に飛び乗ると、サーブルが立ち上がった。
視界が一気に高くなり、ミラは慌てて首の付け根だと思われるところにしがみついたが、目に見えるところは一面羽で覆われているせいで、どこにしがみついているのかわからなかった。
「そーれ行け!」
ハグリッドの声が聞こえると、ハリーを乗せたバックビークが勢いよくかけていき、翼を広げて一気に飛び上がって行った。
「よし、お前もだ!」
ハグリッドはヒッポグリフのお尻を叩くと、ミラを乗せたヒッポグリフはハリーたちを追って駆け出し、空へ一気に上昇した。乗り心地ははっきり言って、快適とは言い難かった。ヒッポグリフが羽ばたくたびに自分の体も上下に揺れたが、それよりも気分が高揚し、心の底から楽しいと感じていた。
風がミラの髪を後ろに流し、頬を紅く染めた。普段は無表情か、冷ややかな視線で人を遠ざけているアメジストの瞳が、今は大きく見開かれ、空の広がりをそのまま映し込んでいる。ヒッポグリフが一気に高度を上げたとき、ミラは声を上げて笑った。誰に向けたものでもなく、ただ嬉しくて出た笑いだった。それは普段の彼女からは想像もつかないほど無邪気で、自由だった。
見下ろせば、放牧場がミニチュアのように遠ざかっていた。けれどミラは怖がる様子もなく、むしろもっと高く、もっと速くとでも言うように、ヒッポグリフの背に身を預けた。
ヒッポグリフはしばらくすると、放牧場の方へ進路を変えた。地上を目指して降下していき、ミラはしっかりとヒッポグリフに引っ付いた。ヒッポグリフの前後のそれぞれの四肢が、衝突するように着地する衝撃が体に伝わってきた。ミラは上体を真っ直ぐにして周りを見回すと、ドラコ、クラッブ、ゴイル、スリザリンの女子以外の全員が歓声をあげていた。