第52章 ヒッポグリフ
もういいだろうか、とミラは顔を上げようとした時、鱗に覆われた前足が視界に入った。ミラは顔を上げると、サーベルは前足を折って、お辞儀だと思われる格好をしていた。
「やったぞ、ミラ!もう触ってもええぞ!嘴を撫でてやると喜ぶぞ、ほれ!」
ミラは少し恐々と、しかし興味津々にヒッポグリフに近付いて手を伸ばした。ほんのりと暖かく、そして艶々とした触り心地にミラは笑みを浮かべた。
「ハグリッド!首とかも触っていいの?」
「ああ、ええぞ。でも羽は引っ張るなよ。痛がるからな」
「わかった」
嘴から、大きな首周りに手を滑らせると、うっとりするような羽毛の滑り心地にミラは顔を埋めたくなった----が、なんとか理性でそれを抑え込んだ。ヒッポグリフもそれを楽しんでいるのか、目を閉じて撫でられるのを堪能している様だった。
隣にいるハリーを見ると、ハリーはバックビークの嘴に触っていた。どうやらハリーも成功したようだ。クラス全員から拍手がわいた。ドラコはハリーがうまくいったことにガッカリしつつも、漆黒のヒッポグリフを嬉しそうに触っているミラに安堵した。いつもはハリーたち、内輪にしか向けない笑顔を惜しみなくヒッポグリフに向けてはしゃいでいる様子は、年相応の女の子に見えた。
「へぇ…」
後ろから声がして、ドラコは振り返った。同じスリザリン生のブレーズ・ザビニがいた。ドラコよりも背が高く、いつも涼しい顔をしてる。何を考えてるのか分からないが、血筋は確かであり、母親が何度も結婚してるって話も、本人はまったく気にしてないふうだ。むしろ、あの余裕はどこから来るのか。ただ、自信がモテると自覚しているからか、女子に色目を使うことにドラコは理解できないと思った。
「なんだ、ザビニ」
ドラコはぶっきらぼうに言い捨てた。ザビニは特に気分を害した様子もなく、話しを続けた。