第47章 擬態紙
「人が大事だと思っているものを盗んで、よく平気な顔をしてるよ…アンタみたいなゴミを見てると、心底吐き気がしてくる」
ミラは人形の体を引っ張っていた手を話し、ポケットに入れてた紙をヒルダに投げ寄越した。「拾え」と目で訴えるようなミラの視線に、恐怖と困惑した顔のヒルダは、地面に落ちた紙をとった。
「この人形が大事なら、その紙にミス・メアリーのサインをもらってきて。うまくいけばこの人形は返す----でも、紙を無くしたり、失敗すれば…」
「っ…」
ミラはまた人形を目の前で左右に引っ張るように見せると、ヒルダは今にも泣きそうな顔で顔を横に振った。
「やる!やるわ!だからその人形を壊さないで!!」
「…今晩、消灯までに取ってきて。とったら私の部屋に来ること。そしたらコレは返す」
「そんな!」
ミラはそれだけ言うと、ブラシを引っ掴んでヒルダの部屋から出て行った。ヒルダの部屋を出たミラは、ため息をついた。本当はこんなことはしたくない。とてもじゃないが、騎士道精神を重んじるグリフィンドール生がすることじゃない、と。
それでもミス・メアリーに頭を下げてまでサインをもらう気持ちにもなれなかった。かけられる言葉が、態度が、視線が、全てに憎しみしか湧いてこず、思わず魔法を使ってしまうのではないかと怖い気持ちがあった。
ミラは部屋に戻ると、ベッドの下に押し込んだトランクを引きづり出した。トランクの中にブラシを入れると、数少ない服を隙間に埋めるように入れた。ヒルダのことは信用できない。もしもの時のために、脱出する準備は整えておく。
ハリーに手紙を書き、窓を開けてノクチュアを呼んだ。
「これをハリーに渡して。多分、今晩ここを出る----すぐに会えるから、ハリーのところで待ってて」
ノクチュアは寂しそうな声を一声漏らすと、手紙を咥えて暗くなった空へ飛んでいった。自分にも翼があれば、とミラはノクチュアが見えなくなるまで見送った。