第44章 死の覚悟
トムと一緒に『嘆きのマートル』のトイレに入ると、ミラは一瞬マートルがいれば、この危機的状況を誰かに知らせてくれるかもしれないと思ったが、何故かマートルはいなかった。こんな時にと、悪態をつきたい気持ちを我慢して、手洗い場の前に立っているジニーの後ろ姿を見ていた。
ジニーから奇妙なシューシューする音が聞こえ、それは以前、ハリーが蛇語を話している時に聞いた音だと異ことに気が付いた。すると、手洗い場が動き出した。手洗い代が沈み込み、消え去った後に、太いパイプが剥き出しになった。
それは、大人一人が滑り込めるほどの太さだった。まさか本当に『秘密の部屋』の入り口がここにあったなんて----『ポリジュース薬』を作るのに、何度ここへ訪れたか----そして五十年前、トムが秘密の部屋を開けている時に、恐らくマートルはバジリスクの目をここで直視してしまった----ミラは苦い気持ちだった。
「僕の命令があるまで、バジリスクは姿を表さない」
と、トムは言うや否や、パイプ中へ飛び降りてしまった。ミラはまさかバジリスクを怖がって降りられないとでも思ったのか、顔を歪ませながらも、迷わずトムに続いた。
ぬるぬるした暗い滑り台を急降下して落ちていくのがわかった。地下牢よりも深いところに落ちているのではないかと、ミラは思った。やっと出口に着くと、ミラの体は放り出された、辺りを見回すと、ジメジメした暗い石のトンネルの中だということに気が付いた。
「さぁ、こっちだ」
杖に光を灯したトムが、我が物顔で先に進み始めた。ミラも杖に光を灯し、トムの後に続いた。
真っ暗なトンネルの中を進んでいくと、途中で大きな蛇の抜け殻に遭遇した。長さは六メートル以上にもなりそうな大きさに、バジリスクが南米にいるようなアナコンダとは遥かに大きさが違うことに唾を飲んだ。人を丸呑みするのも安易な大きさに、まだトロールとの一騎打ちの方が、まだ生きて帰れるような気さえした。