第43章 秘密の部屋へ
「残念だったね。でもおかげで彼女は素直に僕に従ってくれるようになった----言っただろう、君に彼女は救えない、君は無力だって…ああ、これは覚えてない話しか----オブリビエイト」
トムはドラコから記憶を抜き取ると、それを宙に放った。銀色の光は、儚く、スッと空気になって消えてしまった。
「さぁ、案内しよう。君が探していた『秘密の部屋』に」
トムがそう言うと、痛かった頭痛がゆっくりと引いていくのがわかった。シューシュー聞こえていた不気味な音も、気が付けば無くなっていた。ミラは後ろにいるドラコに振り返ると、ドラコはぼんやりとしたまま立ち尽くしていた。
「…」
ミラはようやく立ち上がると、自身のネクタイに指をかけて解いた。それを、ダラリと垂れているドラコの左手にグルグルと巻いて結んだ。巻き込んでごめん、助けようとしてくれてありがとう、助けられなくてごめん----もし、生きて帰れたら----色々言いたいことがあるのに、ドラコの意識が戻ってしまえば、また危険な目に遭うと思い、ミラはドラコから離れた。
『嘆きのマートル』のトイレの前に、トムは立ってミラを待っていた。
「別れの挨拶は済んだのかい?」
「…」
ミラは黙って頷くと、トムの後に続いてトイレの中に入った。