第40章 暗転
「…思い出せそうか、日記のこと」
ミラはハッと息を呑んだ。記憶が一気に遡り、日記を燃やそうとして阻止されたこと。服従の呪文をかけられて、純血一族についてドラコに近付いたことや、ジニーとの会話など、忘れていたことが一気に思い出すことができた。
「----違う、私じゃない…」
「おい、何が違うんだ」
震えそうになる体を、ミラは自分を抱きしめるように押さえ付けた。顔も真っ青になり、震えている声にドラコは驚いた。こんな弱気なミラの姿など、今までみたことがなかったからだ。
「『継承者』は私じゃない…それに日記は…消えた。昨日、誰かに盗まれた」
「なんだって!じゃあ今どこに----」
キィイイと、ドアがゆっくりと開いた。ドラコは驚いて慌てて振り返った----が、ドアを開けた人物を見て顔を顰めた。
「なんだ、お前か。ノックもしないとは、さすがウィーズリーの妹だな」
ミラはとっさにドラコの上衣を掴み、後ろへ力強く引っ張った。二人同時に教室の床に倒れ込むと、ドラコはついさっきまで自分が立っていた場所に赤い光が飛んでいくのが見えた。
「っっ!!いきなり何を----」
「杖を構えろ!」
ミラはすぐに起き上がってドラコを自分の後ろへやると、持っていた杖をジニーに向けた。
「エクスペリアームス!」
武装解除呪文を唱えると、ジニーは自分の持っていた杖で軽くそれを弾き飛ばした。ドラコは全く状況についていけなかった。どうして同じ寮の者同士、そしてロンの妹であるジニーにミラがなんの遠慮もなく呪文を放ったのかも。
ジニーは足元に落ちていた紙切れを見ると、視線を二人に戻した。
「この手紙を書いた奴の言う通り、君は関わるべきじゃなかった。素直にこの手紙の送り主の言うことを聞いておけばよかったものを」
ジニーがドラコの方を見ると、ドラコはギクリと肩を揺らした。あまりにも雰囲気が違うジニーから漂う威圧感に、ドラコは目を逸らした。恐怖で心臓がうるさく、関わってはいけないと頭が警告を鳴らしていた。