第39章 明転
数十歩歩けば届きそうな距離が、ミラの言葉で何十、何百、何千キロにも距離が空いたような感覚がドラコにはした。ミラの顔は前を向いたままで見えず、どんな表情をしているかもドラコには想像もつかなかった。
「早く行って」
「言われなくても、出て行ってやる」
そう言うと、ドラコは教室から出て行ってしまった。
これでよかったんだ、とミラは顔を手で覆った。ミラも何かの呪いにかかっている事に薄々気付いていたが、どうしようも無いもわかっていた。日記のことが思い出せないのも、きっと呪いのせいだということも。そして、このこともまたすぐに忘れてしまうということも。
それでも、ドラコが巻き込まれずに自分の元から去ってよかったと、ミラは思った。ダイアゴン横丁の箒屋で、黒い箒を嬉しそうに握りしめているドラコと、それを満足そうに見つめているルシウス。幸せな家族の光景が、頭の中に浮かんできた。
ミラは体を寄せると、膝に額を当てて大きなため息をついた。