第37章 幸せの箱庭
「変な話、なんでここに毎晩来てるのかわからないんだ…来なくちゃいけないみたいな…寝不足が酷いのに、目が覚めて……なんか、自分らくないって思うこともあって…多分寝不足のせいで、頭が回ってないのかもしれない」
「ジニーはどう思う?」と、ミラはジニーに振り向くと、無表情のジニーと目が合って、ゾッとした。背筋に寒気が走り、無意識に杖に手を伸ばそうとしていた。
「インペリオ」
ジニーのもう片方の手に握られた杖から、呪文がミラに直撃した。直後、頭の中が幸福感に包まれて、ミラは頭を抱えた。強制的に与えられる幸福感が気持ち悪くて、ミラは唸り声をあげて床に倒れ込んだ。
「そろそろ呪文の効果が薄れると思っていた。確認しに来てよかったよ--ああ、またそうやって抗うのか」
「おま、え…クソッ……ジニーに何を…」
「そんなことはお前には関係ない」
今にも途切れてしまいそうな自分の意思を必死に抵抗しているのに、前より抵抗できないような気がした----前にも、こんなことがあっただろうか?突然の違和感に、ミラはジニーを睨みあげた。
「おまえか…おまえだな、…トム!」
「まだ抗うか。どうやら魔力のコントロールは大分うまくいっているようだ---だが、もう遅い」
トムが杖をもう一度振ると、大量の幸福感が込み上げてきて、ミラは涙がボロボロと溢れ出した。気持ち悪くて、でも込み上げてくる幸福感に抗えなくて、気持ち悪い。トムはミラの頭の近くに膝をつくと、優しく頭をひと撫でした。
「泣くほど幸せか」
「…!…!!」
もう言い返す気力もなかった。ぼんやりしていく頭に、気怠い体----プツリ、と意識が途絶えたような感覚が、した。
ミラはゆっくりと上体を起こした。近くに膝をついているジニー、ではなくトムに幸せそうに微笑んだ。
「日記がなくなっても、魔力のコントロールは続けろ」
「はい」
「日記のことも忘れたままだ。興味がない振りをしていろ。今面白いことになってきたんだ」
「はい」
トムは愉快そうに微笑んだ。
「もっとマルフォイから純血のことを学ぶんだ。どれほど純血が尊ぶ存在か、理解するんだ」
「はい」
「いい子だ、ミラ」
目尻に残っていた涙が、ポタリと赤い絨毯に吸い込まれて消えた。