第36章 這い寄る闇
「今更知ってどうする」
「理解したい、今更かも知れないけど……私は、マグルの孤児院で育ったから、未だに魔法界全体のことはわかってないし…ドラコはその点、なんでも知ってるじゃん。ロンよりもっと詳しいって、私でも分かるよ」
ドラコは目を細めた。
(何を考えてる、この女)
ミラの読めない行動に、ドラコは答えを出しかねていた。頭の中では既に「断る!」と決断しているのに、口に出すのを戸惑っている。
(コイツはポッターとその仲間のためなら手段を選ばない奴だ。また何か企んでいるに違いない)
やはり断ろうとドラコが口を開きかけた時、ミラはクルリとドラコに背を向けた。
「やっぱりやーめた。ドラコに聞くより、ロンの方が面白いことが聞けるかもしれないし。じゃ、バイバイ」
「あ、おい----!」
自分を置いてさっさと歩き出したミラに、ドラコは咄嗟にミラを追いかけて肩を掴んだ。掴んだ肩を自分の方向へ向けると、きょとんとした顔のミラに、ドラコはイライラした。
「ウィーズリーに聞くくらいなら僕に聞け!あんな血を裏切る者に聞くことなんてない!」
(違う!何を言ってるんだ僕は!断るって決めてたじゃないか!)
しかし、既に言ってしまったことは取り消せない。アメジスト色の瞳がパチパチと何回か瞬きをした後、ゆっくりと弧を描いて細められた。
「ドラコならそう言ってくれるって思った。あ、でもみんなには内緒だからな」
「あ、ああ…」
「私、本当に理解したと思ってるんだ…引き受けてくれてありがとう」
うっとりした顔でミラはドラコに微笑んだ。ドラコは説明できない何かが体を這い、心臓をぎゅうぎゅうと締め付けた。
「た、頼まれてやったんだ!途中でやめるとか言い出すなよ!」
「もちろんさ」
「じゃ、またね」と、ミラは鼻歌でも口ずさみそうな様子でグリフィンドール棟へ向かっていった。残されたドラコは、心臓を押さえ込んでその場にうずくまった。
「違う、断るつもりだったんだ…クソッ、なんだよ…」
今まで見せたこともない顔で「ありがとう」と言われただけなのに、心臓がバクバク音を立てて煩わしいとドラコは顔を顰めた。
「何か呪いでもかけられたのか…?」
その呟きは、誰もいない廊下に消えた。