第1章 居候と孤児【賢者の石編】
静かな食堂のキッチンで一人作業をして2時間、額に汗が浮かびながらもようやく人数分の料理ができる頃になると、自分の部屋のドアを激しく叩いたミス・メアリーが姿を表した。ミス・メアリーはまるで修道院にいる黒色の布を頭に被り、顔周りは白い布で覆われている。黒くて長いドレスは色褪せたところやつぎはぎの跡はないが、その布の下に隠れた弛んだ脂肪がいっぱいあることを少女は知っていた。
「できたのなら早くテーブルに並べなさい!全く鈍臭い子だこと!」
「はい、ミス・メアリー」
少女は抑揚のない声で答えると、食堂にある大きなテーブルにお皿を並べ始めた。用意をしていると、寝ぼけたようにやってきた子供たちが少女を避けて椅子に座った。しかし少女はそんなことを気にする事もなく、ただ黙々と食器を並べ、できた料理をテーブルの真ん中に置いた。
全ての用意ができると、誰よりも先に座っていたミス・メアリーはニッコリと子供達に微笑んだ。そして手を組み、祈る姿をすると、子供たちもそれを真似した。1番遠くの席に座った少女は眉間に皺を寄せ、あまり見ないように目の前の皿に視線を落としながら、嫌々と手を組んだ。
「主よ、この食事を祝福してください。体のかて心のかてとなりますように。今日、食べ物にこと欠く人にも必要な助けを与えてください」
掛け声が終わると、子供たちは中央に置いてある食事を静かに自分のお皿にもり、楽しげに隣に座った子供同士で話をした。あいにく少女の近くには誰もおらず、そして料理からも手が届かなかったので、立ち上がって近くまで行くと、それに気がついた子供たちが口を閉じた。
一瞬静かになった空間に少女は気にすることなく、自分の食べる食事をお皿に入れ席に戻った。お皿に持った食事は、とても10代が食べる量にしては少なく、少女は他の子供より少し痩せていた。
食事が終わりすぐにキッチンに戻ると大量の皿洗いが待っていた。時計の針はすでに8時を周り、少女は急いで片付け始めた。終わる頃には8時半近く、慌てて部屋に戻りドアの裏にかけてあったカバンを引っ掴むと、何も言わず外へ飛び出していった。