第3章 ダイアゴン横丁
金庫の鍵はグリンゴッツ銀行で使えるかもしれないと、マクゴナガルは言った。このあと来る職員と一緒に行くようにとも。
朝食はシンプルなものだったが、孤児院で食べるものより遥かに美味しいとミラは思った。お腹も久々に膨れ、ミラはぎこちなくお礼を述べた。
「ごちそうさま…美味しかったです」
「それはよかったです、ミス・グローヴァー。そろそろ私は行かねばなりません、何かあればトムに言いなさい。わかりましたか?」
「はい…あ、あの…わたし、お金なくて…」
「気にしなくて大丈夫です、ミス・グローヴァー。ああ、それとこちらを渡しておきます。中には魔法界のお金が入ってます。使い方はここに来る学校の職員に聞いてください。入学用品に必要なお金は全て揃っております」
「…ありがとうございます」
ミラはピンクに頬を染めながら、少しぎこちなくマクゴナガルを見た。未だにこんなに大人に優しくされた経験はなく、受け取ったお金の入った袋を抱き抱えながらミラはモジモジした。
そんな子供らしくないミラに、マクゴナガルは悲しい顔を見せまいと、微笑みを浮かべてみせた。
「学校が始まるのは九月です。あなたの入学を心より楽しみにしていますよ」
マクゴナガルはまた暖炉の方へ歩いて行った。ミラはハッとして席を立ち、小走りでその後を追いかけた。
「ミス・マクゴナガル!」
自分を追いかけてきたミラに、マクゴナガルは振り返った。
「なんでしょう、ミス・グローヴァー」
「ミス・マクゴナガルの…担当教科は…何ですか?」
「私は『変身学』担当をしてます」
「…予習します…どの教科よりも」
ミラは照れ臭くなりは下を向いた。マクゴナガルはそんな様子のミラに微笑ましく思い、そっとその細い肩に手を置いた。
「私もあなたに好きになってもらえるよう、素敵な授業を心がけましょう」
暖かい、と思った。触れている肩もだが、言葉にも温かみを感じ、ミラはようやく頬を緩めて微笑んだ。まだ会って2回目だったが、今まで出会った大人の中で素敵な人だとミラは思った。