第12章 ニコラス・フラメル
「…なんだよ」
突然自分の苗字を呼んだかと思ったら、ミラはドラコの事を静かに睨み付けていた。ただジッとこちらを睨みつけているだけなのに、静かな怒りがミラから滲み出ているのがわかった。
(---今、苗字で)
ドラコは先ほどミラが自身のことを苗字で呼ばれたことに気が付いた。色んなことがあったが、ミラはドラコの事を苗字呼びしたことは一度もなかった。
「アンタに、親がいないわたし達の気持ちを分かれなんて言わない。貧乏だからって、不幸に思ったこともないよ---でも、このセーターを一生懸命編んでくれた人を馬鹿にすることは許さない」
「…」
「さっさとどっかに行って、不愉快、人間のクズ」
ミラはドラコに背をむけ、まだ上空にいるハリーを見上げた。てっきりいつものように杖を向けてくるのかとドラコは思っていたが、静かに言い返されるだけだった。
その上自身のことを不愉快、人間のクズと今まで言われたことのない言葉に、ドラコは歯を強く食いしばってこちらに背を向けて相手にもしないミラに今まで以上に腹が立った。
「---不愉快なのはぼくの方だ。お前、マグルの孤児院育ちなんだって?ずっとこのぼくを騙していたな」
ついにバレてしまったか、とミラはハリーを見つめながら、ドラコが話したことを聞いていた。
「どうりで育ちがそれ以上に悪いと思っていたよ、可哀想に、マグルに育てられたなんて。お前もポッターもついてないな」
「マルフォイ、これ以上一言でも言ってみろ---ただでは---」
ロンはハリーのことが心配で、神経が張り詰めているせいか、切れる寸前だった。ロンが遮ってくれたおかげで、ミラは今にもドラコを殴ってしまいたい衝動を抑えることができた。
「ロン!」
ハーマイオニーが突然叫び出した。
「ハリーが!」
「何?どこ?」
ハリーが突然、ものすごい急降下をはじめた。その素晴らしさに観衆は息を飲み、大歓声をあげた。
ハーマイオニーは立ち上がり、指を十字に組んだまま口に咥え、ミラも立ち上がって「いいぞ、ハリー!」とキラキラしら眼差しで見つめていた。
ハリーは弾丸のように一直線に地上に向かって突っ込んだ。