第27章 そよ風と木枯らし
そっと戸を開けた部屋の中は、風音たちが使わせてもらっている部屋と同じく、窓から朝日が射し込んでおりとても明るい。
この部屋では実弥、小芭内、無一郎が治療を受け、今はベッドで眠りに就いている。
「お邪魔します」
念の為小さく呟いて、物音を立てないよう、しかし急ぎ足で一番奥のベッドまで移動し、無一郎、その次に小芭内、そして実弥の顔色と傷の具合を確認して、安堵のため息を零し灰色の髪をそっと撫でた。
(皆さんの経過は良好、顔色も良し。玄弥君が来てくれる前に、杏寿郎さん、悲鳴嶼さん、義勇さんや剣士の皆さんの様子も見てこようかな)
数多くの剣士たちがここ数日で目を覚ましたが、まだ目を覚ましていない剣士も多くいる。
その中に柱たちも含まれており、皆の傷がどれほど深かったのかを物語っている。
「皆さん、大丈夫だよね?ちゃんと目を覚ましてくれるよね?実弥君……声が聞きたいよ」
不安げで悲しげな小さな声に反応する者はやはり現れず、独り言として部屋に溶け込んで消える。
だがここで悲しんでいても仕方ないと、風音は首を左右に振って、実弥の頬を撫でた。
「戻ったら玄弥君と手当するから、少し待っててね」
返ってくるのは静かな寝息だけだが、今はこれだけでも十分幸せなのだと思い直し、実弥の頬から手を離して部屋を後にした。
ふわふわと体に温かさを感じるが、所々鋭い痛みが走る。
心地良いのか悪いのかよく分からない感覚の正体は何かと、重いまぶたを開けてぼんやりと、現状を把握しようと視線だけを動かす。
「あ"ぁ"……塵屑野郎ぶち殺してから……蝶屋敷に運ばれたのかァ?んで、今は夕刻……っぽいなァ」
柱のなせる技なのか、軽く辺りを見回しただけで、実弥は現状を理解した。
「そりゃ痛ェわけだ。全身怪我だらけ……あ"?何か手があったけぇような……」
一度意識が覚醒すると、様々な情報が入ってくる。今入ったのは、右手が柔らかく温かなもので包み込まれている感覚。
何がなど考えるまでもない、忘れようにも忘れられるはずもない。
大切で守りたかった少女の手に握られているのだと瞬時に理解した。
慌てて右側に顔を向けると、頭や腕に包帯を巻いた少女、風音がベッドに上体を預けて眠りこけていた。