第25章 悲色と記憶
(義勇さん、杏寿郎さん、しのぶちゃんが揃ってるなら大丈夫なはず……炭治郎さんたち継子も皆揃ってる。でもやっぱり念の為……)
元の色が分からぬほどに瞳の色が変化するということは、それだけ体に負担がかかっているということ。
見る対象の人数が減ったと言えど、蓄積された負担は確実に風音の体だけでなく、記憶さえも蝕んでいく。
それでも先を望み、先へ進もうと動かした体はふわりと抱え上げられた。
「え?実弥君?!私、走れるよ!速度も落ちてない自信あるから」
床へ逃れようと捩る風音に叱責が降り注ぐ。
「その目の色は何だァ?!走れっからって体に負担ねェってことじゃねェだろォ!俺の言うこと一つも聞きやしねぇなァ!気絶させられたくなかったら大人しくしとけェ!」
肩に担がれた風音には、実弥が走る速度によって激しく移り変わる景色と、二人の後を追う皆の険しくも悲しげな表情が見えた。
実弥や皆に決して悲しい表情をさせたいわけではないのに、自身の決断と行動が悲しませる結果に繋がっているのだと思うと、胸の内をじくじくと痛んだ。
だがそれでも、風音は見ることをやめはしない。
「すみません……運搬お願いします。あの、皆さん悲しまないで下さい。記憶がなくなっても、皆さんのことは心の中に焼き付いています。皆さんの笑顔も、優しく温かな心根も。実弥君の温かさも絶対に忘れられないよ。こんなにも皆さんが大好きなんですもの」
柔らかく緩められた瞳はやはり強烈な色を放っており、否が応でも皆の胸を締め付ける。
先を見るなと言っても見ることを望む。
気絶させようものなら、得意な跳躍を上手く使って逃れてしまう。
そして目を覚ました時に誰かが亡くなっていれば、涙を流してしまうのだろう。
どうしてやればいいのか実弥すら分からないのだから、皆が分かるはずもない。
こうして柔らかに笑う風音に皆の胸は痛むが、誰よりも胸を痛めているのは実弥だ。
その実弥が苦渋の決断で風音を叱り付けるだけで済ませているので、誰も何も口に出来ない。
「……死なねェように加減はしとけ。俺らのこと忘れたりしやがったら、腫れるくらいに頬抓って思い出させてやる」
自身の頬が腫れ上がる様を思い浮かべた風音はぶるりと身体を震わせた。