第24章 予知と鎮魂
「クソ、間に合わなかったか……はァ……おい、命令だ。こっから離れろ。間違っても増援なんて呼ぶんじゃねェぞ」
「しかし……」
「問答する時間なんざねェんだよ!退らねェってんなら、ここで俺が戦闘不能にしてやらァ」
剣士たちから見て風柱である実弥はとても厳しい。
言葉尻から表情まで、鬼狩りの際はもちろん柱稽古の際も、柱の中で一、二を争う厳しさと険しさだ。
しかし今の表情にはその厳しさや険しさと共に、焦燥が感じ取れる。
急がなくては何かが手遅れになる……と焦っているように思える。
「すみません……でもここで待っています。珠世って人……と言うか鬼を助けるんですよね?助け出したら、こっちに寄越してください。安全な場所に退避させます」
剣士は実弥の向こう側にある不気味な肉塊と、それに取り込まれつつあるだろうと思われる珠世を見据える。
この位置からでは死角となっており珠世の姿は見えない。
剣士は今まで見せてもらっていた先の光景と、今目に見えているもの。
実弥は風音が時途切れさせることなく送り続けてくれている先が、現在の知り得る情報だ。
幾度となく先を送り込まれ、数秒前に戻り、再び新たな先が送り込まれてくる。
風音の中で最適解を瞬時に振り分けることが出来なくなっているのだろう。
悲しい先を見ては、新たに悲しい先を見て、ようやく少し悲しみが少なくなる未来が見える。
この現象はほんの数分前から始まり、今も尚続いている状態だ。
初めは混乱し戸惑ったが、慣れれば特に問題ない。
だが問題ないのはそれだけ。
実弥にとって何より問題なのは風音の精神面である。
(あの鬼をコイツに渡す先……何個かあったなァ。けど一番に飛び出しちまう風音の行動次第になっちまう。……はァ、考えてる暇なんかねェ)
頭の中を的確に整理し、実弥は剣士たちに背を向けて足を動かした。
「あの鬼受け取ったらすぐ離れろよ。それまではそこから絶対動くな」
速度を上げた実弥の耳に剣士たちの返事が小さく聞こえた。
だがそれ以上に聞こえてくるのは、粘り気のある液体が踏み締められ飛び散る音。
「胸糞悪ィなぁ、おい!喰い散らかしてんじゃねェぞ、塵屑野郎!頸、捩じ切ってやらァ!」
通路が途切れた先にある空間に、柔らかな金色が他の通路から飛び出してくる光景が映し出された。