第23章 閃光と氷
元々戦闘により興奮状態の実弥は風音の願いで更に頭に血が登った。
しかし風音は前言撤回するどころか、腕で血を拭い取って菩薩像の端に鬼の姿を映し、瞳の色をより一層揺らめかす。
その様は視力を失うのではと危機を感じさせるほどに強烈だ。
「もういい!俺に先送んのやめろォ!一人分浮けば負担少なくなんだろ!目ェみえなくなっちまったらどうすんだ?!」
「……十秒ほど離れます。大丈夫、この先も私は戦えてるから」
「おい!あ"ぁ"っ、クソがァ!俺の邪魔すんなァ!道空けやがれぇ!」
逆上せた頭の中にある光景で実弥が怒り狂うことは知っていた。
それによって菩薩像の左肩から腕にかけて切り落とすことも知り得ていた。
しかし風音の耳に届いてきたのは、それを切り落とした時より遥かに大きな何かが崩れ落ちる音だった。
部屋内の通路や水に固形物が大量に落ちる音に驚き、この部屋にいる全員が動きを止めて実弥を見遣った。
「ウソ……氷の像が跡形もなくなってる?!何が……」
「止まるなァ!動けェ!」
部屋中に響き渡る声で叫びながら鬼へ迫る実弥の姿に風音が我に返って、自分の成すべきこと成すために体を前へと動かす。
その際に視界の端に映ったのは、本来の緑と混じり合うように赫く染まった日輪刀だった。
(初めに日輪刀を染めたのは無一郎君だったはず……それなのに実弥君の日輪刀の色が赫く染まった……ダメ、今は考えてる余裕ない!)
日輪刀が赫く染まることは知っていた。
柱全員で先を見たので発動条件や効力も、もちろん全員が理解している。
しかし柱稽古では誰も完全に染め上げることが叶わなかった。
その理由は言わずもがな。
実際に染め上げたのではなく、誰もが風音から齎された情報で、その方法を知り得ただけだったから。
頭で理屈を理解しても、体がそれに基づいて動くわけではないからだ。
どのように赤く染め上げたのかを知りたい。
しかしそちらに意識を集中させるほど今は余裕がない状況である。
今は自身がすべきことに意識を戻して、他のことは頭の中から追い出した。
見据える先には毒により順調に体を崩れさせる鬼と、そんな鬼にも容赦なく毒や技を注ぎ込むしのぶと後援を勤めるカナヲの姿。
沸騰しそうなほどに熱く逆上せた脳を全力で働かせ、望む先を二人へと送る。