第22章 想いと約束
どうやら気付け薬は不評のようだ。
柱なるものが気絶などして許されるのか分からないが、気付け薬を飲んでまで剣士たちに見栄を張る必要はないのかも……と思い直し、気付け薬が入っていると思われる鞄をそっと撫でた。
「分かりました。使用量は加減することにします。では私は体をほぐそうと思いますので……えっと、お庭をお借りしてもよろしいでしょうか?」
二人の視線は鞄へと固定された。
その視線に気付いた風音は慌てて鞄の中から大きめの巾着を取り出して差し出す。
きっとこの巾着の中に気付け薬なるものが入っているのだろう。
異様に膨れた巾着を実弥が受け取り中を確認すると、いつの間にこんなに作ったのだと思うほどの量の、紙に包まれた薬たちがお目見えだ。
「実弥君、私が無意識に飲まないように預かっててもらってもいい?気付け薬はこの袋に入ってるのが全部だから、実弥君が預かっててくれたら無茶出来な……しないと思う」
「無意識に薬飲む奴なんざ聞いたことねェけど……まァ馬鹿みてぇに口ん中放り込んじまわないように預かっててやるよ。煉獄、俺も体解してェ、庭借りんぞ」
ずっと巾着を目で追っていた杏寿郎は我に返ったようにハッとして、いつも通りの溌剌とした笑顔となり大きく頷いた。
「それならば道場で解すことにしよう!俺のところも稽古を受けている剣士の数が少なくなっているのでな。君たち二人が増えたところで問題ない!着いてきてくれ!」
勢いよく立ち上がり道場へと向かう杏寿郎に続き二人が立ち上がると、今の出入り口付近に見覚えのある人物が一人。
「父上!今から不死川たちも混じえて稽古をするところです!良ければ父上もご一緒されますか?!」
髪や瞳がそっくりな杏寿郎の父親、槇寿郎だった。
そんな槇寿郎はたまたま通りがかっただけらしく、実弥と風音がいる事実に驚いたように僅かに目を見開らくと、慌てて杏寿郎に向かって首を左右に振った。
「いや……お前の稽古など今の俺が受ければ半刻ももたんだろう。お前たちのやる気に水を差す訳にもいくまい」
「しかし父上、総力戦の際には父上の力をお借りすることになる可能性もあります!今から体を鍛えておいても損はないと思いますよ?」