第21章 藤の花と全貌
天元の軽口に目を血走らせた実弥だったが、それ以上に再び部屋にちょこんと座り直した義勇の存在が更に血管を白目に侵食させる。
それを目の当たりにした風音は口元に当てられた手を握り締め、実弥を道ずれにする形で義勇の前に跪いた。
「冨岡さん、明日は確か実弥君のお家で私と手合わせでしたよね?よろしければこのお宿に泊まり、明日一緒に向かいますか?」
何とも痒いところに手が届く。
義勇のしたいことや言いたいことを風音は的確に感じ取り、お誘いまでしてくれた。
実弥の怒り具合は気になるところだが、願ってもないお誘いに力強く頷く。
「あぁ。そうさせてくれ。宇髄、俺はこの宿で厄介になる」
「……お前って度胸あるよな。まぁ好きにしろよ!じゃあ今度こそ俺は帰る!嬢ちゃん、俺の稽古来てくれんの楽しみにしてるぜ!嫁たちと一緒にな!」
風音が頷くのを確認すると、さすが元忍と言わざるを得ない動きで天元が部屋から退散していった……窓から。
とんでもない退散の仕方に呆然としたのも束の間、本来居るはずのなかった人物に実弥の意識が向けられる。
「冨岡ァ……百歩譲ってこの宿に泊まることは許してやらァ。で、まさかこの部屋に泊まるつもりじゃねェよなァ?」
風音の背後からであっても実弥の威圧感は健在だ。
しかし義勇に怯えた様子はない。
「安心しろ。お前と柊木の同衾の邪魔はしない」
自信満々な笑みが実弥の逆鱗に触れた。
それを瞬時に悟った風音は実弥の手を引き一緒に立ち上がると、義勇の背後にある出入口へと足を進めてクルリと笑顔で向き直る。
「お気遣い嬉しく思います!では冨岡さん、女将さんにもう一部屋お願いしてくるので、ここで少し待っててくださいね!」
「あ"ぁ"?!んなことコイツにやらせりゃいいだろォ!なんで俺らがそこまで面倒見なきゃなんねぇんだ!」
「私、寝ちゃったでしょ?それのお詫びも兼ねて……実弥君、ついてきてほしいな」
風音の願いは例え義勇が絡んでいようと断れない。
遠慮して危うくついてきそうになった義勇を眼力のみで留まらせ、なんだかんだ言いつつ優しい実弥は、風音の願いを叶えるため、女将のもとへと赴いていった。
「やはり不死川は姉さんみたいだ」
独り言は無事に独り言として完結した。