第18章 境内と家族
上弦の鬼を倒した当日。
全員が近くの藤の花の家紋の家で休ませてもらい、翌日に蝶屋敷へと隠たちによって運ばれた。
そこで判明したのは、今回の戦いで痣が発現したのは実弥だけでなく、無一郎と蜜璃にもそれぞれ発現していたということ。
風音を含め実弥、無一郎や蜜璃の怪我は玄弥たちと比べると比較的軽いものの、発現の条件を報告する場は怪我が完治してから設けるのが望ましいと本部が判断したので、帰宅許可をいただけた四人は各々の頃合で蝶屋敷を後にしているところである。
「ぉい……なんで今更胡蝶を前にして恥ずかしがってんだよ。胡蝶も暇じゃねェんだから、さっさと挨拶しねぇか」
蝶屋敷の門の前。
お見送りをと共に門まで来てくれたしのぶの前で風音は顔を赤くしてモジモジ……
それを数秒間眺めていたが、モジモジするだけで言葉を発さない風音に痺れを切らした実弥が急かしたのだ。
この様子に対していつも通りの柔らかな笑みを浮かべ、しのぶは風音の頬を撫でて先を促す。
「まぁ確かに今更な感じは否めませんが、何か私に伝えたいことがあるのではないでしょうか?風音ちゃん、どうしましたか?不死川さんの前で言いにくいことであれば移動しても構いませんよ?」
「ああ?俺がいない方がいいなら向こうで待っててやるが……」
潔く二人から離れようとした実弥の手を慌てて握り引き止めると、風音は意を決したようにしのぶに向き直って、ようやく口を開いた。
「ち、違います!そうではなくて……あの!いつも私たちの怪我の治療をして下さってありがとうございます。このご恩は研究で……お返し出来ればと。ですので……これからもよろしくお願いします!し、しのぶちゃん!」
顔を真っ赤に染めたのは風音一人。
実弥としのぶは一瞬ポカンとした後、それぞれの反応を示す。
「お前……ハハッ、胡蝶の名前呼ぶだけで恥ずかしがってたのかよ。胡蝶、どうやらコイツはお前と仲良くなりてェみたいだぜ?」
実弥は呆れながらも笑いを零して風音の頭をくしゃりと撫で、名前を呼ばれたしのぶは更に笑みを深めて、頬を僅かに赤く染めながら手を口元に移動させ小さく笑った。
「あらあら、可愛らしいお誘いだこと。こちらこそこれからもよろしくお願いしますね、風音ちゃん」