第17章 芸術と嘘吐き
「こちらこそありがとうございます!お薬作っておきますね」
ニカッと笑って走り去る玄弥を風音が手を振って暫く。
使用済みの布の処理や手指の消毒を行っていると、ストンと真横に人が座る気配がした。
その人、実弥から感じ取れる雰囲気は決して険しいものではなかったので、風音はそちらに体を倒して身を委ねた。
「怪我、酷くなくてよかった。あのくらいの怪我だったら、蝶屋敷で二・三日お世話になれば元通りになると思う」
「……そうかよ。玄弥の体、特に変わったことはなかったか?今日は見てねェけど、普段鬼喰ってるらしいからなァ」
体が触れている部分からは暖かさと共に僅かな震えも伝わってくる。
それでも風音から離れず返事を待つ実弥に、玄弥の手当てをして感じたことを素直に伝えた。
「命に関わる事象は外傷を見る限り感じ取れなかった。でも怪我の治りは周りの人より早いように思えたかな。怪我直後の様子を見てないから何とも言えないけど、出血量に対して傷が小さすぎるものが幾つかあった。後は……胡蝶さんに聞いてみないと分からない」
風音が知識として有しているのは医学ではなく薬学に近い。
今まで多くの怪我や病気を目にしてきたと言えど、自身の屋敷を鬼殺隊専用の病院として解放しているしのぶには、医学どころか薬学でもはるかに及ばないのだ。
実弥が望んでいるであろう返答が出来ないことはもどかしいが、人の体に関わる内容でいい加減なことはいえない。
それを分かっているからだろう。
実弥もそれ以上風音を問い詰めることはせず、小さく息をついて軽く身を委ね返した。
「今はそれだけでも分かれば十分だ。ったく……呼吸の技使えねェなら鬼殺隊なんか辞めちまえよなァ。鬼なんぞ喰ってもいいことねェだろうによ」
「大切な誰かを守りたいって気持ちは強いよね。実弥君も玄弥さんもお互いに守りたくて一生懸命で。お二人共強くて優しいところがそっくり。好きな匂いも同じでびっくりしちゃった」
からかいの全く含まれていない声音、二人が兄弟だからそっくりだと敢えて口にしなかった風音の髪に頬を擦り寄せる。
それからはこの件について触れることなく、一斉に戻ってきた炭治郎たちの処置を行う風音を静かに見守っていた。