第16章 里と狼煙
「お前は少し黙っとき。ゴメンやで、この子は昔からすぐ癇癪起こしよるねん。怖がらんで大丈夫や、折れてしもうた刀はきちんと直させるからな。それよりちゃんと挨拶出来て良い子やなぁ、歌舞伎揚げあげるから食べとき」
鋼鐵塚が小さな体の里長から頭にゲンコツをくらい、風音はみたらし団子を手渡す前に里長から歌舞伎揚げを渡されてしまった。
どうしようかと迷っていると何故か実弥に歌舞伎揚げを突っ込まれてしまい、仕方なくバリバリと咀嚼を始める。
「素直な子やなぁ……怒ったり驚いたりするとこやと思うけど。まぁええわ。それは部屋に持って帰り。不死川さんの刀とその子の刀は同じくらいに出来ると思うから、それまで温泉にでも入って養生しぃな」
初めて聞く方言というものに目をキラキラさせながらバリバリと咀嚼を続ける風音の頭をくしゃりと撫で、実弥はお返しにと大量のみたらし団子の入った箱を里長へと差し出した。
「ありがとうございます。これは柊木が皆さんにと持参したものです。遠慮なく食ってやって下さい。では俺たちはこれで失礼します。ほら、いつまでも食ってねェで行くぞ」
「んっ!うぐっ……!ふぁい!里長、数日間お世話になります!えっと……鋼鐵塚さん、刀をどうかよろしくお願い致します。折ってしまいましたが、貴方の打ってくださった日輪刀で多くの人を救えました。とても……感謝しております」
未だに畳の上で寝そべりそっぽを向いている鋼鐵塚の表情は見えないが、伝えたいことを伝え終えたので、実弥に促されるまま部屋の外へと移動し、襖が閉まる前に最後にと頭を下げた。
残された里長や鋼鐵塚、里の者たちは顔を見合わせて頷き合うと、一斉にみたらし団子の入った箱をおもむろに開封して幸せそうな顔でそれぞれ口へと運んでは咀嚼する。
「あぁ、そう言えば不死川玄弥言う不死川さんの弟来てたなぁ。なんやあんま仲良くないみたいやけど……言うといたった方が良かったんかなぁ?」
ここにいる者で里長の質問に対する回答を持ち合わせている者はいない。
皆が首を傾げるも今更どうしようもないと、仲良くみたらし団子堪能を再開した。