第14章 炎と風
「寛三郎、俺の肩に乗ってくれ。速度を上げる」
風音の命運を一身に背負っている義勇は現在、鬼舞辻無惨が現れると情報がもたらされた場所にほど近いところまで来ていた。
「モウ近イノカ?気ヲ付ケルンダゾ」
高齢故にフラフラと空を飛んでいた義勇の鎹鴉である寛三郎は促されるままに義勇の肩へと身を落ち着け、風圧で飛ばされぬよう頑張ってしっかり掴まった。
「あぁ、近い」
あと少し近付けば風音の気配を感じ取れるという場所で一気に速度を上げて救援へと急ぐ。
(不死川の弟子……確か鬼になった自分の父親の頸を自ら落としたと聞いたな。目の前に仇が現れて正気を保っていればいいが)
風音と話したのは数えるほどしかない。
いつの日か柱全員と風音で昼餉を食べた時に一言二言話したくらいである。
あとは藤の木を探した礼を述べられた時くらいだろうか。
会えばいつも何故か義勇に怒ってしまう実弥と共に生活をして、穏やかな笑顔を引き出させ大切に守られている風音に興味はあるものの、会いに行く口実など思い浮かばないし……そもそも会ったとしても何を話したらいいのか思い浮かばない。
そんな相手である風音の性格はもちろん知らないが、まことしやかに柱の間で囁かれている内面を思い出して眉間に皺を寄せた。
「鬼に対して意外と好戦的、跳ねっ返りの性格で不死川と同じように自ら血を流して鬼と戦う……」
嫌な想像しか頭に思い浮かばない。
「柊木が死んでしまえば……不死川は泣いてしまうのだろうか」
一度だけ、たった一度だけ実弥が涙を流した姿を見たことがあった。
それは柱となった実弥がお館様に啖呵を切った後、昔馴染みだった青年剣士の遺書を読んだ時だ。
普段は(義勇に対して)怒りっぽく、鬼と会敵すると情け容赦なく鬼の戯言を耳にする前に頸を斬り落とす青年が涙を流す姿は、あまり知った仲ではなかったと言えど胸に痛みをもたらすものだった。
「……柊木、不死川を泣かせてはいけない」
実弥が聞いていれば血管を浮き上がらせていたであろう言葉を紡いだ義勇は、言葉通り実弥が涙を流してしまわないよう、実弥が大切にしている少女の救援へと急いだ。