第13章 夜闇と響鳴
危うく禰豆子の手を振り払おうとしてしまった実弥の胸元に頬を寄せ小さく首を振った。
「大丈夫、禰豆子さんは体内に残った毒を焼き切ってくれる頼もしくて可愛い子だから。何が起こっても心配しないで」
そう言葉を言い終わったと同時に禰豆子の手からじりじりと炎がくすぶり始め、瞬く間に風音の全身に燃え移り……と言うよりも暖かくも優しく映る不思議な炎で包み込んだ。
「焼き切ってくれるって……読んで字のごとくじゃねェか。風音、熱くねェのか?本当に体内の毒を焼いてんだろうなァ?」
驚き疑問を抱いているのは実弥だけではない。
禰豆子の兄である炭治郎も禰豆子の今の炎を見るのは初めてなようで、その場の全員が驚き固まりながら二人の様子を見つめ続けている。
「うん、暖かくて気持ちいいくらい。毒もあと少しで体から抜けるよ」
尚も皆の視線を受け続けほんの少しの恥ずかしさからゴソゴソと身動ぎした後、風音は脚の上に上体を預けたままの禰豆子を抱きしめた。
「禰豆子さん、ありがとう。もう毒はなくなったみたい。汽車の時も今日もたくさん助けてくれてありがとう。今度は私が禰豆子さんを助けられるように頑張るからね」
「むーー、んむ」
嬉しそうに抱きつき返してきた禰豆子に表情筋という表情筋をユルユルに緩めてから体を離すと、禰豆子は風音の頬にそっと触れて目を優しげにひそめ炭治郎のそばへと戻っていった。
それをユルユルの表情のまま見送り、再び実弥の胸元へと身を沈みこませる。
「これで命の危険はなくなりました。しかも実弥君が手当してくれたからもう歩けそうな気がしてきた!皆さん、たくさん助けていただきありがとうございます!お疲れだと思うので早速藤の花の家紋の家に行きましょ!よっこいしょ……実弥君、目が険しくなってる!」
体内の毒が無くなったからと言って骨がくっついたわけでも裂傷が塞がったわけでもない。
それなのに実弥の脚の上から勢いよく立ち上がろうとした風音は実弥から静かにお叱りを受けた。
天元に笑われ炭治郎たちに生暖かな視線で見守られながら。