第3章 能力と剣士
自分たちに宛てがわれた宿屋の一室。
柱たちに見送られ宿屋まで到着したまではよかったものの、入口に入るなり宿屋の女将に怪訝な顔をされてしまった。
この宿に初めて到着した時、風音は全身汗だくで立っているのがやっとなくらいに疲れ果てており、二度目に到着した先ほどはプツリと意識を途切れさせた風音を背負っているのだから仕方がないといえばそこまでだが……実弥がなんともいたたまれない気持ちになったのは言うまでもない。
それをどうにかやり過ごし、風音用の部屋に寝かせて自分の部屋へと戻った……初めの二時間だけ。
「全っ然、起きねェ。もう軽く四時間は寝てんぞ……薬作るために変なもん体に入れてねぇよなァ?はァ……胡蝶に診てもらっときゃよかった」
実弥の脳裏に浮かんだのは、いつも穏やかな笑みをたたえているしのぶの姿。
しのぶは薬学に精通しており自身の屋敷を鬼殺隊隊士専用の病院として解放している。
そんなしのぶに風音を診せておけばよかったと後悔しているが、ただの疲労による睡眠だと誰もが信じて疑っていなかったので、こんなことになるとは想定外だろう。
「どうすっかなァ……息は……してるみてぇだし熱もなさそうだ。医者を呼ぶか胡蝶を呼ぶか……コイツのこと考えんなら胡蝶だよなァ。まだこの近辺にいんのか?」
眠りから覚めない風音を一瞥してから、何故か風音の枕元で羽を休めている爽籟を抱えあげる。
「ナンダ?」
すごく不満そうだ。
「ナンダじゃねェ……コイツのことが心配なら胡蝶を探してきてくれ。望みは薄いがまだ柱の誰かとこの街にいるかもしんねェだろ」
不満げな雰囲気から一変、爽籟は窓際まで運んでもらうことなく自ら窓へと羽を動かし、実弥の指示を完遂すべく夕日が沈みゆく外へと飛び立って行った。
「……こっちがナンダ?だっつぅの。風音とそんなしゃべってすらなかっただろうが」
風音が起きていたなら何かしらの反応を返してくれていただろう実弥の言葉も、今は誰も返してくれない。
昨日あの村へ任務に行くまでは普通だったことが、今は何故だか少しだけ寂しく感じた。