第2章 柱
小芭内の呟きに風音としても他でもない蜜璃が和んでくれているならばこのままで良いように思えてきた。
それに痛くはないので実弥の手の温かさが心地いい。
「実弥さんの手、温かくてホッとします。何だか……フワフワするような……お母さんの手みたいに優しくて温かい……」
目を細めてふにゃりと笑ったかと思うと、徐々に瞼が閉じていき……やがて完全に瞳を覆い隠して開かなくなってしまった。
そして実弥の手に多大な負担を強いた。
「……寝ちまいやがった。……重てェ」
「眠ったのか?!そのままの格好でか!ふむ……心身共に疲れていたのだろうな!起こすのも可哀想なので、今日はこれでお開きにしよう!不死川、責任持って風音を宿に連れ帰ってやるのだぞ!」
「不死川を母親と認識しているのか。そうだな、宿に連れ帰ってゆっくり休ませてやりなさい。君たちの勘定は済ませておくので、焦らずゆっくりしていくといい」
杏寿郎と行冥の言葉を合図に次々と柱たちが椅子から立ち上がり、二人に笑顔を向けて帰り支度を始めてしまった。
お開きにして風音を休ませてくれるのは有難いが、このまま放置されるのは体勢的に辛いものがある。
「悲鳴嶼さん、今度会った時に今日の勘定は返します。手間ァかけさせてすいません。手間ついでにコイツを抱えあげるの手伝ってもらえると……」
「俺が手伝ってやる。不死川はそのままの格好でいるといい」
なんと名乗りを上げたのは食事処に入ってから一言も口を開かなかった義勇だった。
そんな義勇は実弥の役に立てるかもしれない現状が嬉しいのか、得意げな笑顔で風音の衣紋に手を掛け……実弥に物凄い形相で睨まれ物凄い力でその手を掴まれた。
「テメェ……ふざけてんのか?!そこ引っ張ったら首締まんだろォがァ!……なんだ、その顔はよォ!首傾げてんじゃねぇぞ!」
危うく大事になるところだった二人の遣り取りを柱たちが宥めておさめ、蜜璃が風音の体を軽々と抱き上げて実弥の背に背負わせてやり食事処を後にした。
笑顔で皆が見送る中、実弥は気持ちよさそうに穏やかな寝息を立てる風音を休ませるため、宿へとゆっくり足を動かした。