第8章 力と忌み血
翌朝、夕餉も取らずに眠りについた風音は未だに眠っている。
長い時間泣き続けたことにより可哀想に思えるほど瞼は赤く染っており、堪らず実弥は風音を起こしてしまわない程度の力で頭を撫でてやった。
(辛いことあっても自分の中だけに押し込める癖ついちまってんだなァ……村では聞いてくれる奴がいなかったから)
「俺じゃあ……力不足かよ」
小さな呟きは風音に届いていない。
まだ覚醒していない風音には聞く術も答える術も持ち合わせていないから。
「俺のモンだって……印つけてェ。離れられなくなるような印付けてお前を引き留める楔にしてェなァ」
柄にもないと思いながらも、無防備に何の警戒もせず自分の胸に身を委ねて眠り続ける風音を見ていると、いけないと分かっていても脳に一気に血が行き渡り逆上せあがってしまう。
「クソ……泣き疲れてる女相手に何考えてんだァ?なァ……早く起きて締まりねェ笑顔見せてくれよ。このままだとマジでヤベェんだけど……」
しかし実弥の願いは届かない。
いつもなら実弥の声に反応して起き上がる……のに、だ。
「……体熱くねェか?!おい、風音。風音?!」
頬を撫でてやっても髪を掻き上げてやっても目を覚まさない。
まさかと思って額に手を当てると、あまりの熱さに実弥の頭の中の熱が急激に下がっていった。
「熱あんじゃねェか!」
「ん……実弥さん?おはようございます……ギュッてして?」
さすがに実弥の大きな声は熱でフラフラなはずの風音をも覚醒させた。
しかし本人は熱がある自覚はないようで、寝ぼけ眼で実弥に腕を拡げる呑気さを発揮させている。
「それどころじゃねェだろ!熱出てんじゃねぇか!解熱剤か風邪薬持ってきてんのか?鞄の中入ってんなら取ってきてやる、どんなのか教えろ」
「熱……あぁ、大丈夫だよ。知恵熱みたいなものだから。村に住んでた時も何回かあったの。大人しくしてれば数時間でおさまる……だからね、実弥さん。お願い、抱き締めて」
薬を飲ませ楽にさせてやりたいのに、風音が望んでいるのは自分だという。
いつもなら叱りつけ有無を言わせず薬の在処を問いただしていたが、不安げに瞳を揺らす風音を前にすると叱りつけるなど出来るはずもなかった。