第2章 柱
埋葬を終えたものの実弥は風音に声を掛けられずにいた。
それと言うのも風音が所々血が付着した母親の着物を抱きすくめ、地面にしゃがみこんで蹲ってしまっているからだ。
(どこに行きてぇか……聞いてもあるわけねぇよなァ。薬作るなら胡蝶んとこがいいんだろうが、こっからだとかなり距離がある)
地面に腰を下ろし身動ぎ一つしない風音を横目に考えを巡らせていると、小さな悲痛な声が実弥の耳を刺激した。
「お母さんとお父さんのところに行きたい。二人に会いたい……お母さん、生きてるかもって思ってたのに」
悲しい希望は実弥の胸を締め付け鋭い痛みを運んできた。
父親が亡くなり母親が行方不明だっただけでも計り知れない辛さなのに、目の前の自分より年若い少女は生きているかもしれないと、日々会えることを信じていた母親が、実は化け物に喰われて死んでいたのだから。
「悪ぃがその願いは叶えてやれねぇぞ。母ちゃんも父ちゃんもそれを望んでねぇだろうからなァ」
「……うん。分かってる……困らせてすみません。せっかく貴方に助けてもらった命を無駄にはしません。頑張って生きるから……誰もいない山の中に行きたい。廃墟がある場所に心当たりありませんか?」
顔を上げ実弥を見る目は真剣で戯言を言っているようには見えない。
両親を失い人に騙され、挙句の果てに化け物……鬼への供物にされかけた少女が望んだのは孤独だった。
孤独が何よりの癒しだと自分の中で判断してしまった。
「生憎人気のねぇ山奥の廃墟に心当たりはない。てか再三言ってっけどよォ……山の中に女一人置き去りに出来ねぇって。はァ……他に行きたい場所見つかるまで俺の屋敷に来ねぇかァ?」
悲しみに暮れる風音の瞳はユラユラと揺れている。
言葉が出てこないところを見ると戸惑っているのだろう。
実弥の提案は自分の希望とは掛け離れているから……
「俺は鬼殺隊っつって、さっきみてぇな鬼をぶち殺すことを生業とする組織に属してんだ。夜は任務やら警備で屋敷を出て朝から夕方前まで休んでる。俺と屋敷で鉢合わせすることも少ねぇだろうし、人も滅多に来ることはない。お前の希望に近いだろ?」
「それは……そうですけど。私、お金持ってないし着物も何もかも村の人に取り上げられたから……迷惑しか掛けられません。これ以上貴方に迷惑掛けたくないので」