第1章 碧い誘い
「素直になりなさい、雲雀恭弥」
一瞬の速さで距離を詰めてきたかと思うと、骸は僕の腕をがし、と掴んでくる。彼に捕らえられただけで僕はびくっと怯え体が強張った。
「い……やだ…ッ」
「僕に会いに来てくれた、それが何よりの証拠です」
「……あなたが…」
言葉が、勝手に口をついて出た。自分でも何を言い出すのか、と苛立ちを覚える。
「あなた、僕を呼んだでしょ…」
どうしてこの男の前で弱みを見せるんだ。どうして応えるような態度を取るんだ。
自分で自分が信じられず、でもどこかでそれが胸の奥にある一番の願いだとも感じていた。
「だから、来たんだ」
その答えに驚いたように目を見開き、僕をまっすぐに見つめてくる骸。次第にその目を細め、愛おしそうに僕に触れてきた。
「好きです」
彼に組み敷かれ、いつの間にか制服のシャツが脱がされていた。あらわになった肌の上を骸の指が感触を楽しむように滑っていく。
「違う……愛しています」
しっとりと艶めく声で囁かれ、耳までも犯される。
「う……あ…ッ」
「君の全てを知りたい…だからこうして君に触れるんです」
彼に触れられるたび、鼓動が速まり息が荒くなっていってとても苦しい。
すると骸は僕の手を取り、ぎゅっと優しく、力強く繋いできた。瞬間僕は、自分の胸が掴まれたみたいにきゅっと切なく軋むのを感じた。
「じゃあ…僕が今、考えていることも解るの」
試すような口調で僕が尋ねると、彼はシーッと制止するように人差し指を僕の唇に押し付ける。
「当ててあげましょうか…」
そのうち指を下ろすと、ゆっくりとかがんできて僕にそっと耳打ちした。
全てがゆっくりとした緩慢な動作で再生されていく。耳に触れるか触れないかの唇がもどかしくくすぐったい。それさえもが僕の心の奥の喜びを呼び覚ます。
僕の意識はただひたすら、深い海の碧のような、青く青くくすぶった闇の中へ消えていく。
またどこかで、鳥の鳴く声が遠く聞こえた気がした。
「君は僕のなかに、何を見ましたか」
朝の光が眩しく差し込む部屋でヒバードに起こされ、僕は目覚めた。
はっとして、咄嗟に自分の手を見つめる。彼の手に繋がれた感触が再び戻ってくるようだった。
完