第1章 碧い誘い
夜に、珍しく鳥の鳴き渡る声がした。
誘われるように部屋を飛び出し、虚ろな足取りで迷い込んだ青く暗く広がる空間で我に返る。
辺りに散乱する瓦礫の山。ここは廃墟だろうか。生き物の気配がないと、何だか錯覚する。この世界は幻覚なのだろうかと。
無限のような広がりを持つ建物内をひとり進む。
すると背後に突然何かの気配を感じて、暑い季節ではないのに汗が背筋をつたう。
ここに辿り着くまで誰にも会わなかったのに。体が強張って振り向くことが出来ない。その何かに、僕は怯えてしまっているのか…
「また会えて嬉しいですよ」
その声に反応して体の硬直がおさまり、弾くように振り返る。そこにいたのはやはり、頭の中をよぎった人物。僕がひそかに期待した相手。
「ああ…僕も嬉しいよ。だって…」
僕は持っていたトンファーを取り出し構えた。
「今度こそ君を…咬み殺すから」
この瞬間を待ちわびていたように攻撃を繰り出す。しかしその割には、互いの武器がぶつかり合わさる音を他人事のように聞いている自分がいた。
「また、強くなりましたね」
鍔迫り合いになり、武器越しにこちらを見つめてくる彼、六道骸は満足気に微笑む。その笑みが癪に障って、僕は相手を力一杯突き飛ばした。
「君は素敵です」
体勢を崩すことなく再度こちらに歩み寄り、骸はうっとりとした表情で語りかけてくる。
「一旦きっかけを掴めば、君は解り易い。故に、君は僕に…」
「僕の何が解ったっていうの」
相手の口車に乗らないよう、口を挟んで彼の言葉を止めた。再び攻撃を仕掛ける。攻撃さえしていればきっと、僕は正気を保っていられる。
僕のトンファーを受けた骸が倒れる。すぐによろよろと立ち上がり、口端の血を拭いながら告げた。
「口実なんて何でもいい…僕は君が欲しいんです、雲雀恭弥」
彼は両腕を広げて不敵に笑った。
「欲しい物は手に入れる。君と同じです」
「同じ…」
この男が僕と同じだなんて、考えただけで…
「反吐が出る」
「クハハッ…酷い言い様ですね」
睨み据えてそう吐き捨てると、彼は可笑しそうに口を開けて笑った。