第62章 愛し愛され想い想われ
サランの体が目を覚ます。
部屋には誰もおらず静かに部屋を出る。
すでに外は夜も更け、満月が上っていた。
全員寝静まっているのか簡単に外に出られて辺りを見回す。
(わたしがいなくなったあと、サランには苦労させたわ。こんな苦しい思いをさせてごめんね)
海のさざなみが耳をくすぐり潮風が髪を優しく撫でる。
こんな世界になってしまったのにその人はまだ希望や未来があると信じ優しく笑った。
娘と見てみたかった景色だらけの世界、悔いがないといえば嘘になる。
今、閉じこもってる娘に変わって見ておこうと町を歩く。
程よく魔物も来なさそうな場所に来ると海に写る月を眺めながらハミングする。
やがてそれははっきりとしたメロディとなり歌となる。
旅立つあなたの世界に私は居られない
未来があなたを待っている
眩いほど輝く未来へ向けて
何度もあなたは泣くでしょう
悲しみと後悔を感じて
何度もあなたは笑うでしょう
そこに希望と光をのせて
私はそこには行けないから
あなたを愛してます
だから私は背中を押すのです
ありがとう、私に愛を教えてくれて
ありがとう、私の子になってくれて
歌い終えると満足したように彼女は笑った。
「シルビアさん」
キリッとしたその声はシルビアの知るサランでありサランではなかった。