第1章 袖触れ合うも他生の縁
脳裏に浮かんだのは鮮明な光景だった。私は淡い浅葱色の着物を着ていて、古風な家が立ち並ぶ道にいた。建物からして江戸時代、と言いたいが、それを否定するように数々の宇宙船が空に浮かんでいた。周りの人達を見ても、普通に髷を結った人間が大半だが、中には洋装を纏う人型をした獣の姿もあった。奇抜で、私の歴史の知識から大いにかけ離れた光景。しかし、一人だけ見知った顔が目の前にある。今しがた出会った男性だった。先ほど去り際に頭を撫でたように、ここでも優しく私の頭を大きな手で撫でていた。
眼鏡はなく、服装も白衣ではないが、間違いなく彼だった。黒いインナーの上から波模様をあしらった白い着物を中途半端に纏っている姿は、不思議と彼らしさが滲み出ているように思える。腰には「洞爺湖」と刻まれた木刀。この廃刀令のご時世に、未だにまっすぐな侍の魂を持つ方。その人の名はたしか、そう。
「……銀時さん。」
かすれた声で名を呟けば、一気に感情と供に涙が溢れ出した。そうだ思い出した。これは夢で見た光景。夢の中で会ったのは彼、坂田銀時だったのだ。いや違う。夢じゃない。これは、きっと記憶。遠い遠い、彼に恋をしていた頃の記憶。そうだ、そうだったのだ。夢を通して見ていた記憶。私が泣いていた理由は、これだったんだ。
「…っ、好きです。銀時さん…!」
酷く懐かしい記憶が、前世より持ち合わせていた彼への恋心を解放させた。きっとこの時代でも、もう彼以外を好きにはなれない。彼を今まで思い出せなかった悔しさ、彼と再会を果たせた喜び、せっかくの再会にあっさり訪れた別れからの寂しさ。彼を考えるだけでいくつもの感情が渦を巻くように胸の中で暴れた。
私は胸の痛みに耐えるように、銀時さんから貰った飴を握りしめながらその場にしばらく座り込んだ。