第4章 【第三講 後半】そして棒倒し……
「パピー!」
普段よりも幼げに聞こえる少女の声で、○○は視線を校庭へと戻した。
見れば、神楽が父親の元へと駆けつけている。
○○も痛む足を引きずりながら、松葉杖を駆使して彼等の元へと近づいた。
ようやくたどり着いた時には、神威らが帰ろうとしていた。
二度と来るなと唾を飛ばしたいところだが、今回は彼等にも力を貸してもらっている。
○○は黙って見送ろうと心に決める。
何となく穏やかになっている○○の気分を壊したのは、
「それにしても高杉ってマジ暗えよな」
その一言。
神威に対しても向けられなかった殺意が、銀八に向けられる。
銀八の背後に見えた姿に、○○は目を丸くする。
「高杉くん」
○○の声に、銀八は振り返る。
高杉はその両手にハタ校長と、じい教頭の首根っこを掴んでいた。
巨大ハタロボットが暴走し、即座に逃げ出していた二人。
「ヤボ用……」
○○は呟く。
高杉はたまたまいたから連れて来たと強調しているが、先程言っていたヤボ用とは、二人を引っ捕らえることだったのだろう。
ハタ校長は謝罪し、何となく空気は和やかなものへと変わって行った。
皆がハタ校長と銀八のやり取りに目を向ける中、○○は高杉が立ち去る後ろ姿を見ていた。
「さーてと、とんでもねー体育祭になっちまったが、パーッと打ち上げでも行くか。今日は俺のおごりだ」
「マジすか!!」
パシパシと、銀八は長財布を叩いている。
「いや、それ、余の財布だから」
それはたった今、ハタ校長の懐から抜き出されたものだ。
新八が、近藤が、土方が、沖田が、ワイワイと盛り上がる。
「あれ? また高杉さん、いなくなっちゃいましたね」
キョロキョロと新八は周囲に目を配る。
「高杉さんにも打ち上げに参加してもらいたかったですね」
新八がピンチに陥っている時、高杉は出て来てくれた。むろん、自分を助けるためなどではないことはわかっているが、高杉の登場で救われたことは事実だ。
和気藹々と話せるはずはないが、難局を共に乗り越えた苦労を分かち合いたいものだ。