第4章 【第三講 後半】そして棒倒し……
「ていやァァァ!!」
○○は松葉杖を振り上げた。そして振り下ろした。
夜兎工のダブリ王こと、阿伏兎の旋毛目掛けて。
背後からの攻撃に気づいた阿伏兎は、新八の体を高く掲げた。
「新八くん!!」
このままでは、阿伏兎ではなく、新八の脳天を砕いてしまう。
推進力のかかった腕は簡単には止められない。○○は体を捻り、腕を振り下ろす方向を変えた。
松葉杖は阿伏兎の体の横に振り下ろされた。
「……!!」
○○は身の危険を察し、後方へと飛び退いた。
阿伏兎は空いている方の手を背後へ回し、後ろの人物の体へ拳をめり込ませようとした。
「○○っさっ……! なん……で、かァァ! あぶっ、危なっ……!」
胸倉を掴まれて宙吊りにされながらも、新八は助けに入った○○の心配をする。
「背後から不意打ち食らわせるたァ、ちと、卑怯じゃねーか? ネーちゃん」
阿伏兎はゆっくりと振り返った。
「人様の体育祭に乱入するような不良相手に、マナーなんて通す義理はない!」
○○は怯まずに応戦する。
「おもしれェ」
阿伏兎は新八の胸倉から手を離す。
尻餅をつきながら、新八は青ざめた顔で○○に叫ぶ。
「○○さん! 逃げて下さい! なんでこんなところに……!」
「大切な友達のピンチに、駆けつけないわけないでしょ!」
新八は思わずホロリとする。自分のピンチに駆けつけてくれた。それは素直に嬉しい。
だが、心を打たれている場合ではない。
「ていうか、なんで走れてるんですか!」
新八の目には、ここまで全力で駆けて来る、○○の姿が見えていた。
「それはさっき、そいつが言ってたよ」
○○は松葉杖の切っ先を阿伏兎に向けた。
――すぐくっつくように折るやり方だってある。
要するに、○○も自分でそういうやり方で足を折ったということ。
「俺達を止めるつもりか? だがネーちゃん、そんな細いカラダでどうやって俺達を相手に――」
ズキューンと、○○の手元から銃声が鳴る。