第4章 【第三講 後半】そして棒倒し……
「コラァァ!!」
○○がぬいぐるみを眺めていると、渋い怒鳴り声が校庭に響いた。
声の主は、星海坊主。夜兎工業高校の教師にして、神威と神楽の父親。
彼は保護者席のテントから息子を諌めんがために大声を上げていた。
だが、星海坊主は息子の口車に乗せられて、あえなく引き下がった。
「自分の息子がド不良だってわかってんの? アッサリ引き下がって……」
「誰だァァ! 今ピッカリって言った奴はァァ!!」
「それ私のことォォ!?」
数メートルの距離で囁かれた言葉が、星海坊主には聞こえていた。
しかも、アッサリをピッカリと間違えて。
「むぐぐ……」
○○は立ち上がったまま戦況を見つめた。
すっかり白組と赤組の立場は逆転。今ではいつ白組の棒が倒されてもおかしくない状態になっている。
「トシィィィ! 早く倒して!」
土方らが果敢に攻めるも、赤組は火事場のバカ力で踏ん張っている。
このまま神威に押し切られてしまうのか、はたまた土方らが赤組を崩すのが先か――
両陣営とも倒れそうになりながらも倒れない、一進一退の攻防戦。
○○は手に汗を握って見つめる。
そんな中、阿伏兎に胸倉を掴まれた新八が、棒を取り巻く輪の中から引きずり出された。
「新八くん……!」
棒倒しに参加していたのかと、今さら○○は新八の存在を知る。
同時に悪い予感がする。どう見ても阿伏兎は何かを企んでいる。
○○は走り出した。松葉杖を両脇に抱え、しっかりと両足で新八の元へと駆け出した。