第3章 【第三講 前半】小説版に時系列なんて最早ない
棒倒し開始の時間が刻々と迫る。
入場ゲートに群がる男子達。風紀委員の面々も加わり、棒倒しに参加する生徒は大方集まったところだろう。
○○は椅子に腰掛け、ゲートに目を向けていた。だがそこに、捜す人物を見つけ出すことは出来ない。
「競技には参加しないのかなァ」
「誰がじゃ?」
「月詠先生!」
独り言の呟きが白衣の保健教諭に聞かれていた。
「ああ、そうか」
何も答えずにいると、月詠は入場ゲートに目を向けて呟いた。
「ぬしは同じクラスに恋人がいるんだったな。確かに姿が見えぬな」
「……はい?」
○○は首を傾げた。
同じクラスに恋人などいない。世界中のどこにもいない。
「……誰のことですか?」
○○が見上げると、月詠は不思議そうに目を丸くした。
「何を言っている。あの長髪の……桂とか言ったか?」
○○は頬を引きつらせる。
「いつから私が桂くんの恋人になったんですか」
「何? 違うのか?」
「違います!!」
「そうなのか……?」
月詠によると、銀魂高校に転任して早々、桂が月詠にアドバイスを求めにわざわざ訪ねて来たという。
――クラスに恋人がいるが、もしもそーゆーことになった時、俺はどうすればいいか。
その恋人が○○だと、桂は言っていた。
今までの教師には聞きづらかったが、月詠は何だか聞きやすいと、桂は訪ねた次第だった。