第3章 【第三講 前半】小説版に時系列なんて最早ない
「……まァ、棒倒しが終わるまでは学校にいるよ。3Zが関わる競技はこれで最後だし、体育祭のメイン種目だし」
棒倒しは、各組五十名、合計百名の男子による、一大決戦。
最終盤でのこの競技は、ここまで競っている白組と赤組の勝敗自体に大きく影響するだろう。
それだけではない。この競技は体育祭の華。危険過ぎて女子禁止。すなわち、男を見せるチャンス。
ここで自分の手で棒を倒すことが出来たら、女子達の拍手喝采、黄色い声援を独り占め出来ること間違いなし。
もしかしたら、体育祭後もウハウハのスクールライフを送れるかもしれない。
そんな一大種目なのだ。
「そうか。あまり無理せんようにな」
「うん。もうここで座ってるだけだから、大丈夫だよ」
うむと、近藤は大きく頷く。
「さて、俺達もそろそろ入場ゲートへ向かうとするか」
近藤の声に、はい、という声がチラホラと上がる。
風紀委員の面々は、その多くが棒倒しに参加することになっている。
「じゃあな、○○。そこで俺の雄姿を見ていてくれ」
ニカッと笑顔を見せると、近藤は踵を返した。
○○はエールを込めた手を振って見送る。
チラリと、土方は○○を振り返る。
「○○、近藤さんじゃなく、俺の雄姿を見ていてくれよ。――by土方」
土方が脳内で紡いだ言葉は、沖田の声を以て表へと出された。
「何言ってんだ、テメェ!! 何が “by土方” だ!!」
土方は鋭く反応し、沖田に食ってかかる。
「なんでィ、そう思ってたくせに」
沖田は飄々と、風船ガムを膨らませた。
「おお、思ってるわけねーだろ! 俺は勝利のために戦うだけだ! それ以上でもそれ以下でもねェ!!」
土方は沖田の胸倉を掴んで揺さぶった。
「助けてェェ、ジャスタウェェェーイ」
沖田はわざとらしく声を上げる。
「オイオイ、何やってんだ? 棒倒しの前に体力消耗するなよ」
いつものこととはいえ、近藤は呆れながら二人を諌めた。